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141117 慰安婦問題 識者の見方は 歴史見つめる努力 怠るな

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14/11/17の北海道新聞朝刊 12面

慰安婦問題 識者の見方は

歴史見つめる努力 怠るな

ノンフィクション作家 半藤 一利さん



従軍慰安婦問題の本質は朝鮮民族の女性の人権をまったく無視し、ひどい思いをさせたというヒューマニズムの問題である、という認識を持つかどうかだ。
それは朝鮮民族に限らず、オランダ人、インドネシア人、あるいは日本人の慰安婦についても言える。
普遍的な問題なんだということを理解し、今の日本がどんな態度を取るか。
世界はそれを見ている。
この理解がなかなか広がらないのは、一つは歴史を学んでいない、史実を知らないことがあると思う。


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たとえば、慰安所の経営などは、業者がやったことであるのは間違いないが、戦場の近くで慰安所を営業するには、軍が許さなければできなかった。
1932年の第一次上海事変の後に、上海派遣軍が作った慰安所規則の記録が残っている。
これが最初だと思う(「新国史大年表」国書刊行会)。


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そこでは、派遣軍守備区域内に軍官憲の許可を得て営業する、陸軍軍人と軍属以外は利用禁止といった点のほか、営業時間、料金なども定めてある。
注目すべきは、軍医が週1回慰安婦を検診する、としていたことだ。
これは、兵隊の間に性病がまん延すれば、兵力の低下を招き、軍事上ゆゆしき問題になるからで、軍が管理せざるを得なかった。
戦場の性の管理は世界の軍隊でも同様に腐心したことだった。
これは基本的な事実で、それなのに、あまり知られておらず、情緒でものが語られている。


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もう一つは、私たち日本人が先の戦争のことを見つめ直す努力を怠ってきたのではないか、ということだ。
戦争というものの正体と、その中にある非人間的な部分をはっきりと認識すべきだったのに、できないうちに、戦後70年ほどの間に忘れ去ってしまった。
引きずっていれば、復興も大変だったろうけど。


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戦後はなんとはなしに、日本を亡国に導き、アジアの人たちに大変な迷惑をかけたのは、軍閥や悪い官僚らであって、国民に責任はないんだということで始まった。
連合軍の手で東京裁判をやられて、国民は無関係にされてしまったこともある。
実際は男も女も、国家の勝利のために、非人間的な、ヒューマニズムに反することをやってきたと思う。


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こうした視点では、アジアの一員としての日本と日本人が、アジアの諸国と人々をどう見るか、ということも大切だ。
近代日本は「脱亜入欧」といって、アジアなど相手にするな、われわれはヨーロッパの文明を目指す、と勤勉に国づくりに励み、いち早く近代化した。
先の戦争の「大東亜共栄圏」というのも、日本が親分になって、アジアの遅れたみんなを引っ張り上げるということだった。
こんな歴史が朝鮮をはじめとするアジアを軽視する意識を生んだのではないか。
それが従軍慰安婦問題の奥底にもかかわっている気がする。


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新聞についても触れたい。
歴史問題、歴史認識問題の記事を書くのに、記者たちの基本的な勉強が足りなすぎる。
吉田清治証言などはちょっと調べれば、おかしいなと気づいたはずだ。
戦争末期には、国力の衰退に伴い、法律がどんどん変わり、動員のあり方が時期によって違っていたといったことは、動員の歴史に目を通せば分かる。
基本的というより、初歩的なことだ。


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歴史問題をきちんと伝えるには、紙面が狭すぎることもある。 せいぜい1、2ページの特集が精いっぱいだ。
細切れ、つまみ食いでは、歴史の検証は難しい。
こうした宿題を克服して、メディアは戦後70年にしっかりと向き合ってほしい。


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