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Cameraと散歩

since '140125

160611 カストロの矜持

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変見自在 高山正之

カストロの矜持


「1511年、スペイン人はキューバに渡った」とラス・カサスは著書『インディアスの破壊についての簡潔な報告』で、この島の悲劇を書き起こしている。
スペイン人は黄金を求めて民を殺しまくり、部族の王は両足の先をとろ火で焼かれ、肉が焦げて骨が剥き出しになるまで拷問されて黄金のありかを尋問された。
ラス・カサスは狩りに出たスペイン人の話も書いている。
獲物はなかった。
腹をすかせる猟犬のためにスペイン人は女が抱く赤ん坊を取り上げ、ナイフで切って犬に食べさせた。


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男は酷使されて死に、女も子供も殺された。
見映えのいい処女だけは生かされて慰み物にされた。
モレーナ、男ならモレーノと呼ばれる混血児が生まれ、モレーナが可愛ければまたスペイン人がもてあそんだ。
しかし男を絶やしてしまうと働き手に困る。
スペイン人はアフリカから黒人奴隷を入れて働かせた。
彼らは黒人女にも手を出した。
黒人混血はモレーナに対してムラータ、男ならムラートと呼ばれた。
19世紀になるとそうした混血児が団結し、彼らを奴隷支配する白人への抵抗が始まった。
スペイン人はせせら笑って抵抗する者を残虐に殺しまくった。


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長い内戦が続いた。
その間、隣の米国は見て見ぬふりを続けた。
英国の植民地支配に苦しんだ米国人なら植民地の民の痛みが分かるはず。
どうか支援をとキューバ人が頼んでも、米国は冷淡にあしらい続けた。
理由は2つ。
キューバの民は非白人ということ。
そして「隣国は乱れている方がいい。安定した隣国は却って脅威になる」ことは国際社会の常識だった。
実際、それから半世紀後、キューバが米国の属国から脱して「意思を持った独立国」になった途端、米国は建国以来の危機を味わう。
キューバよしみを得たソ連がミサイルをそこに持ち込んできた。
世に言うキューバ危機のことだ。
だから混血児とスペイン人が深刻に殺し合う内戦状態を米国は歓迎していた。


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ところが19世紀末になると形勢が変わった。
スペイン人が押され、国際世論も味方し、混血児たちの国が誕生寸前にまできた。
とたんに米国が動き出した。
ハバナに戦艦「メイン」を送り込み、スペイン人を牽制し、混血児たちにエールを送るポーズを取った。
なぜ今ごろ、とキューバ人は訝ったが、その「メイン」がある夜、大爆発を起こし、日系人乗組員8人を含む266人が死んだ。
白人士官は全員無事だった。
セオドア・ルーズベルトの友人で新聞王のW・ハーストは傘下の新聞に「爆発はスペインの仕業」と報じさせ、「キューバ解放の戦争を」と煽った。


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それは嘘だ。
ファーストはその前に高名な戦争挿絵家F・レミントンハバナに送っていた。
「君は写真を用意しろ。戦争は私が用意する」(『新聞王ハーストの生涯』)と。
彼の言葉通り米国は開戦を決め、ほとんど死に体だったスペイン軍あっけなく敗れた。
これで混血児国家が祝福されて誕生するかと思ったら、違った。
米国はいち早く軍政を敷き、親米派による傀儡政権を建て、憲法にはキューバの外交を含む国政への介入権を認めさせた。
さらに「米国の国防のため」に米軍基地を提供させる1項も付け加えた。
今に残るグアンタナモ基地だ。


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何のことはない。
キューバは米国の属国とされてしまった。
隣国は危険だ。
だから無毒化した。
それのどこが悪い。
米国の傲慢が支配する異常事態はカストロが登場し、親米のバチスタを倒すまで半世紀ほど続いた。
しかし米国はカストロに長い間の無礼を謝るどころか逆に経済封鎖し、孤立させる別の形の異常事態をさらに半世紀続かせた。


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合わせて1世紀に及ぶ米国の傲慢がオバマの一言でやっと終止符が打たれた。
巨像の脅しに屈しなかったキューバ
そういう矜持をかつて日本がもっていたことを思い出す。


’15/1/1・8 週刊新潮より