Cameraと散歩

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160914 マニラの10万人

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変見自在 高山正之

マニラの10万人


吉田清治は「済州島に行って警官に下知し、家々から若い女を引きずり出してトラックに積み込んだ。同行の軍人は幌の中に入って女を漁った」と言った。
「女たちは戦場で性の奴隷にされ、恐らく生きて帰った者はいないでしょう」とも語った。
それがみんな嘘だったと朝日新聞が認めた。

最初は珊瑚落書き事件の時と似ていた。
編集担当役員の杉浦信之は「慰安婦問題は朝日新聞の捏造だといういわれなき批判が起きています」とか開き直って反省の色もなかった。
それが珊瑚と同じに社長の木村伊量が退陣し杉浦も解任されて社を去った。


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後始末はいろいろある。
まず「日本軍は20万人を性の奴隷にした」
「手足をバラバラにして殺した」
と教科書に載っている米国に行って教科書会社に「あれは誤りでした」と伝え、削除を頼まねばならない。
国連人権委にも行き、クマラスワミが引用したのは「うちが捏造したもので根拠がないからと取り消し」を要請するのも仕事だ。

さらに西海岸のグレンデールなど慰安婦像が立つところを訪れて市長に事情を説明して撤去をさせる。
ソウルも忘れてはならない。
日本大使館前の像を撤去するよう朴槿恵によろしく伝えることだ。
だれも第三者委員会がどうするかなんて期待していない。
朝日が責任をもってそうやると思っていた。


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ところがどうもそんな雲行きではなくなってきた。
というのは辞めたはずの杉浦が「反省のポーズは嘘でした」みたいに復社して新しい役職ではつらつとやっていると聞く。
女子挺身隊金学順を登場させた植村隆も170人の弁護団を擁して世間に反撃に出ているという。
紙面も変わっていない。

あの事件は新聞に寄せる読者の期待を裏切った。
本屋には「記者の心得」とか記者ものが並ぶ。
記事を書くのは大変、足でネタを探し、真実に迫り、裏も取ってやっと記事ができると偉そうに書いてある。

だから慰安婦モノも取材を尽くし、真実に迫った記事と思っていた。
しかし事実は済州島も女狩りも軍法会議も吉田の名前まで嘘だった。
裏の一つも取っていなかった。

読者が怒るもう一つはその類の記事に付く「歴史から目をそらさない」とか読者を叱る言葉だ。
嘘を書きながら、何を偉そうに。
そういう傲慢を捨て、記者のいろはから始めるのが朝日の務めなのに、その兆しが一向に見られない。


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先日はフィリピン人作家ショニール・ホセの「日本軍はマニラで10万人を虐殺した」話を載せた。
10万人が死んだのは米軍の空爆のせいだ。
米軍自身が「まあ半分くらいは」と小声で認めているが、ホセはそれを語らない。

日本兵は残虐でビンタされた」と彼は言う。
それは東南アジアのどこでも聞く苔の生えた嘘だ。
仮にビンタがあって、それと米軍が「日本人と区別がつかないから原住民は皆殺しにした」(レスター・テニー・元アリゾナ大教授)のとどっちが残虐だ。

記事はホセに勝手に話させるだけでどの1行も裏を取っていない。
吉田政治の記事とそっくり同じだ。


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そしたらそれに前後してAP電がマニラ発で「日本軍は米軍の爆撃の合間に女子供を集めて計10万人を虐殺した」とホセより荒唐無稽な話を報じた。
ヒュー・コータッチもジャパンタイムズに「マニラの10万人虐殺が日本の都市への集中爆撃を招いた」と寄稿している。
なぜ同じ嘘の一斉報道か。

いぶかしんでいたら数日後の3月10日に日本の新聞が東京大空襲70周年を報じた。
そう言えば原爆忌が近づくとあちこちで南京大虐殺話が飛び出してくる。
米国だけが残虐ではない。
お相子ではないかと。
それで東京大空襲10万人犠牲者には嘘を承知のマニラ大虐殺の出番なのか。


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そう考えると朝日は米国の都合に合わせて記事を書かされているともとれる。
朝日の体質が改まらないのもその辺にホントの理由があるのかもしれない。



’15.4.2 週刊新潮より