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Cameraと散歩

since '140125

161222 嵌り役日本

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変見自在 高山正之

はまり役日本



良さそうに見えた割り込みを打ったら、大竹九段がそれはダメだねと言って20手先まで打って「ほらね」。
世の中には先の先まで読めるヒトがいる。

国と国が織りなす歴史を見ても、先の先を読んで手を打つ国もあれば、ただ嵌められて泣きを見る国もある。

例えば真珠湾だ。
ハワイ沖で演習した米太平洋艦隊が西海岸のロングビーチ基地に戻らず、そのまま真珠湾に繋がれた。
本日からここを艦隊基地にするとルーズベルトが言った。
真珠湾攻撃の1年半前のことだ。

馬鹿を言え。
真珠湾は浅く、出口は狭い。
いざという時に身動きもできない。
何より日本に近すぎると艦隊司令官リチャードソンが抗議したが、大統領は彼を更迭し、キンメルに替えた。

それから日本を追い詰め、怒らせてここを攻撃させるつもりだった、おとりだったとR・スティネット『真珠湾の真実』にある。


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もう一人のルーズベルトが19世紀末に始めた米西戦争もその類だろう。
あの時米国はスペインの圧政にひしがれたキューバの民を救うと言って宣戦布告した。
でも最初の砲戦は遠くマニラで始まった。
米国にはキューバなどどうでもよかった。
4年かかった戦争のうち対スペイン戦は最初の半年だけ。
あとは反抗するフィリピン人の戡定かんていに費やされた。
そこを取れば日本が南方に出る道を閉ざせる。

この戦争の前、ルーズベルトは「日清戦争の賠償金で買った2隻の軍艦が日本に着く前にハワイを併合し、パナマ運河をつくり、太平洋に大量の軍艦を並べたい。私は日本を脅威と感じている」とアルフレッド・マハンに書き送っている。


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彼が大統領になった時、その三つの願いは現実のものになり、ハワイ、ミッドウェー、グアム、そしてフィリピンという日本包囲網が出来上がった。

広島原爆50周年に当たる95年、ワシントンに原爆投下機エノラゲイを丸ごと展示するスミソニアン博物館の別館が完成した。
館長マーティン・ハーウイットは「良くも悪くも歴史的な意味を持つ機を朽ち果てさせるのは忍びなかった」と言った。
しかし米政府公文書には原爆投下の翌年に米空軍が動機をスミソニアン博物館に寄贈し、大事に保管されてきたとある。
朽ちてなどいない。
50年前からこの日のために手を打っていたのだ。
館長はぬけぬけ嘘を言った。


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そういえば20世紀末に妙なイベントが二つあった。
一つは金沢で遊んでいた白人の英会話教師が書いた『敗北を抱きしめて』に、ピューリッツァー賞が出された。
優れた歴史研究書を顕彰するバンクロフト賞も、全米図書賞も与えられた。
白人に媚びる日本人と彼らを正しい道に導く占領軍という思い込みが半分。
残りはパンパンの語源に性病に効く抗生物質の話。

知性を感じさせないジョン・ダワーの本がいい賞ばかり受賞したワケは先の戦争を「白人倶楽部に入れなかった日本が突如、発狂し、残忍にアジア諸国を侵略した」と定義したからだ。

アジア諸国を侵したのは白人どもだ。
それを消した上で「南京大虐殺」も「赤ん坊を放り上げて銃剣で刺した日本軍」の所業も「今さら検証するまでもない」と真実と認定している。

これに権威ある賞を与えれば原爆投下も東京大空襲も「極悪の日本を一刻も早く叩き潰すための正義の行為」に昇華できる。


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彼の受賞と同じ頃、全米のジャーナリストによる「20世紀100大事件」アンケートの結果が発表された。
月面着陸とか抗生物質の発見とかを押しのけて1位は、「原爆によって日本を降伏させた」だった。
さらに月面着陸を挟んで3位に真珠湾が入る。
ロシア革命(16位)なんて目じゃなかった。

かくて21世紀。
「原爆による日本人大虐殺」を米国の恥どころか、大いなる誇りに変えてしまった。

戦後70年。
では日本はどう先を読み、どう手を打っているのか。

’15.7.2 週刊新潮より