Cameraと散歩

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170627 十年前の懸念

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藤原正彦管見妄語


十年前の懸念


郵政解散はちょうど10年前の2005年だった。

郵政民営化法案は造反議員が多く出たため衆院では5票差で可決されたものの参院では否決された。

そこで小泉首相はなんと衆院解散したのだ。

「公務員である郵便職員26万人が民間人になれば財政削減になる」などと言ったが、郵政公社は独立採算であり、人件費に税金は1円も使われていなかった。

「官から民へ」とマスコミを挙げての宣伝に、国民はいつも通りに騙されて、小泉自民党は歴史的大勝利を収めた。

造反議員達は抵抗勢力とか既得権にしがみつく守旧派と指弾されたうえ、自民党公認を取り消され刺客を立てられるなどした。

落選したり国民新党を結成したりしたが、彼らの多くは私の見る所、自民党の中でも最も真面目に国を憂える人々だった。




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彼らが議席をも賭けて反対したのは、よく勉強し郵政改革の真実を知ってしまったからだった。

1990年代にアメリカはそれまでの対日方針を変え、日本をアメリカの財布にしようと考えた。

「(アメリカは)1994年から年次改革要望書で毎年、郵政事業を民営化せよと要求していた」
「小泉構造改革の内容は・・・・いずれもデフレ政策であり、日本に蓄積されている個人の金融資産を日本のために使わせないようにする戦略であった」(菊池英博『そして日本の富は略奪される』ダイヤモンド社)。

財政赤字国アメリカは、郵貯簡保にある350兆円に目をつけ、新規米国債の引受け先にしようと狙いをつけたのである。

この戦略についてはすでに1993年に、米シンクタンク戦略国際問題研究所の日本部長だったケント・カルダー氏が、「(日本の)郵貯の活用が世界経済の活性化につながる」と米経済誌に書いていた(佐々木実『市場と権力』講談社)。




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郵政法案とはこのような流れの中で竹中平蔵郵政民営化担当大臣の指揮の下、法案提出前の1年間だけでアメリカと17回もの入念な協議を重ね練られたものだった。

純粋に国内問題のはずなのだが。

造反派が恐れたのは、民営化し株式を上場した段階で、郵貯と保険の2社が外資に買収されることだった。

日本国債の最大かつ最安定の引き受け手である2社が外資に握られたら、外資の意向で国民の財産350兆円が運用され日本経済の基盤は一気に崩される、と考えたのである。




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民営化後10年をかけて日本郵政は今秋11月4日に株式上場される。

上場にあたっての中軸的な幹事証券は、野村、三菱UFJモルガン・スタンレーJPモルガンゴールドマン・サックスと決まった。

外国証券がこれほど入るのは異例だ。

JAL上場では5社とも日本だった。

かんぽ生命は日本生命と5年以上にわたりガン保険を共同開発してきたが、急遽アメリカのアフラックのものを売り出すことになった。

また日本郵政は、日本のIT企業でなく米アップル、米IBMと組んで、高齢者用アプリを搭載したiPadを高齢者に配ることになった。

4、500万台に上るという。

これほど多くの人々の情報が外国に握られてしまうことになる。




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日本郵政はすでに資産運用にあたり日本国債の比率を下げると言明し、運用部門のトップにゴールドマン・サックス証券の前副社長を採用した。

日本は、すでにアメリカの財布になりつつある。

それに外資がいつか株式の20%ほどを買うことは充分ありうる。

その外資が「格付けも利率も日本国債よりはるかに高い米国債を買え」と要求すれば、当然従わざるを得ない。

事実上うることのできない米国債だ。




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何もかも10年前に懸念されていたことだ。

日本を犠牲にしてでもアメリカに貢献したいという不思議な人々が、小泉時代から現在に至るまで我が国の経済政策決定の中枢にいるのだ。

郵政上場に関し本質論は何も聞こえてこない。

TPPについてもそうだが、我が国の富をアメリカへ貢ぐことについてマスコミは、賛成しても反対はしない。

管見妄語 藤原正彦 週刊新潮 第60巻38号から