Cameraと散歩

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180504 自爆テロをカミカゼと言うな

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東京情報 自爆テロカミカゼと言うな  S・P・I 特派員 ヤン・デンマン

【東京発】パリで発生した同時多発テロを、現地メディアが「カミカゼ攻撃」と表現しているようだ。
しかし、その語源となった日本の神風特攻隊は、一般市民を攻撃対象にしたものではない。
あのような表現は誤解を招くのではないか。




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白髪のバーテンダーが頷く。


「先日、作家の野坂昭如さんが亡くなられました。彼は『国家非武装されど我、愛するもののために戦わん』という本を出していますが、その中で『軍隊とは国家の資本やステートを守るものであり、人々を守るものではない』『もし日本に外敵が攻めてきたら国家に頼らず民間防衛で自分たちの身を守ればよい』という趣旨のことを説いていた。戦争で幼い妹を亡くした野坂さんが平和を語るのはわかりますが……」




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国家が正式に組織した軍隊、つまり正規軍だけが戦争を行う権利を持つ。
それ以外の集団が武器を持って立ち上がれば、どのような大義があろうと、ゲリラと看做みなされる。

当然、戦場において人権が守られることがない。




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似ても似つかない

フランス人記者が唸る。

「ISは正規軍ではなくてゲリラだろう。だから国際法違反なんだ。民間人を狙った絨毯じゅうたん爆撃や空襲も同様だ。戦争とは正規軍同士の戦いのことであり、民間人を狙った攻撃は許されない。従って、広島や長崎の原爆投下は明らかな国際法違反だ」

日本はサンフランシスコ平和条約を締結する際に、原爆投下が国際法違反であることをもっと強く主張すべきだった。
しかし日本に突き付けられた講和条件が当時としては悪いものではなかったため総理の吉田茂はそのまま呑んでしまった。




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来日中の部下ラッセル君が言う。

「アメリカやイギリスが行なった国際法違反はこれだけではありません。アメリカ空軍とイギリス空軍は第二次世界大戦末期の1945年2月13日から3日間にわたってドイツ東部のドレスデンを無差別爆撃しています。ドレスデンは歴史的建造物も多く、”エルベ河畔のフィレンツェ”と呼ばれた美しい街でした。軍事基地もほとんどなかったのに、連合国は空爆瓦礫がれきの山にしてしまった。アメリカ人やイギリス人は日本の特攻を野蛮だと非難しますが、自分たちがもっと野蛮な戦争犯罪人であることには気づきもしないのです」




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日本軍の神風特攻は正規軍によるものであり、当然国際法に違反しているわけではない。
要するに、ISのテロと”カミカゼ”は似ても似つかないものなのだ。


フランスの作家で文化相でもあったアンドレ・マルローは、特攻の精神を高く評価した。

スターリン主義者たちにせよナチ党員たちにせよ、結局は権力を手に入れるための行動であった。日本の特別攻撃隊員たちはファナチックだったろうか。断じて違う。彼らには権勢欲とか名誉欲などはかけらもなかった。祖国を憂える貴い熱情があるだけだった。代償を求めない純粋な行為、そこにこそ真の偉大さがあり、逆上と紙一重のファナチズムとは根本的に異質である〉




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たしかに特攻は非合理的な戦略だ。
若い命も失われた。
戦争の悲劇は二度と繰り返すべきではない。
しかし、祖国と家族を想う一念から恐怖も生への執着もすべてを乗り越えて出陣した特攻の精神は貴重なものではないか。


バーテンダーが頷く。

「私は鹿児島の知覧を何回か訪れたことがあります。神風特別攻撃隊の出撃基地の1つです。そこに行けばたいていの日本人は襟を正すのです。戦中、どこかで特攻作戦が行われると、ラジオで『海行かば』が流れました。私は子供でしたが、厳粛な気分になったものです」




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伝統的な死生観

われわれも少々厳粛な気分になってきた。

バーテンダーが続ける。

大東亜戦争真珠湾攻撃で始まりました。特殊潜航艇に乗り込んで、真珠湾の米艦艇を攻撃しようと企図、未帰還となった海軍大尉たちは『特別攻撃隊の偉勲』として軍神とされました。彼らの攻撃も決死作戦だったんです。つまり、戦争末期の神風特攻隊だけでなく、あの戦争自体が決死の覚悟のもと行われたのです」




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ラッセル君が腕を組む。

「近代以前の戦争では、人的消耗を顧みずに陣地を占拠する戦いが行なわれていました。こうした決死作戦に従事することは、洋の東西を問わず名誉とされてきました。西武劇の『アラモ砦』もそうですよね。圧倒的に優勢なメキシコ軍を相手に、勝てないことが確実であるにもかかわらず、できるだけ敵に損害を与えて足止めするわけです。これも全米を奮い立たせた美談とされてきました」


バーテンダーがライムを搾る。

「作家の山田風太郎は、『特攻を含む日本軍の最後の大暴れは決して無駄ではなかった』と言っています。彼は軍に好意的ではありませんでしたが、特攻が占領軍に恐怖の感情を植えつけたことを評価したのです」




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フランス人記者が顎鬚あごひげを撫でる。

「日本人は特殊な民族であり、欧米人は理解できないという固定観念を、日本人自身が利用してきたフシもあるな。これは60年代の話だが、必死になって交渉にあたる日本のビジネスマンを見て、欧米のビジネスマンは『ここで契約しなかったら彼はハラキリをするのではないか』と恐れたという。いわゆるエコノミックアニマル、モーレツ社員と呼ばれた時代の企業戦士たちは、欧米人には特攻の精神と重なって見えたのかもしれない」




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しかし日本人も変質してきたのだろう。
若い世代は「命こそが最上の価値である」という価値観を植えつけられて育ってきた。
けれど生き延びることが至上の価値になってしまえば、死ぬ意味も見つけられなくなる。


ラッセル君が頷く。

「映画やドラマでも特攻を描いたものがありますが、出撃に際して思い悩む隊員の心情を、現代の価値観に基づいて描いていました。あれは少し問題がありますね。日本人の伝統的な死生観が失われてきたということなのでしょう」




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バーテンダーがサービスで人数分のカクテルをつくってくれた。

カミカゼです。 ウオッカベースにコアントローとライムジュース。 名前の由来はその切れ味にある。 これが日本のスピリッツです」

'15/12/24の週刊新潮より