’18/12/29付け北海道新聞朝刊3面の記事 フォーカス
日韓対立 視界ゼロ
レーダー照射動画
日本 公開 首相が主導 / 韓国 証拠にならない
韓国海軍駆逐艦の火器管制レーダー照射問題で、防衛省は28日、海上自衛隊P1哨戒機が撮影した動画の公開に踏み切った。
友好国の反論を封じるため、約13分にわたる「証拠」を突き付けると判断したのは安倍晋三首相だった。
韓国側は「事実関係のごまかし」と猛反発。
ともに妥協点を見いだせず、日韓関係がさらに悪化する虞も出てきた。
協議は決裂
「しらを切るなら動画を公開する用意がある」。
27日午前11時に始まった日韓防衛当局の実務者協議。
日本側がテレビモニター越しにすごむと、韓国側は「やるならどうぞお好きにやってください」と言い放った。
2時間にわたる会議が決裂した瞬間だった。
日本側はレーダーを一定時間、複数回照射されたなどの主張とともに証拠を示せば韓国は非を認めるはずと踏んでいた。
だが、韓国側は、駆逐艦のレーダー使用は、遭難した北朝鮮船舶の捜索が目的との立場を譲らなかった。
日本の認識とは大きく食い違い、議論は平行線をたどった。
安倍首相の反応は早かった。
首相官邸で27日午後3時ごろ、谷内正太郎国家安全保障局長や防衛省制服組トップの河野克俊統合幕僚長らから協議結果の説明を受けると「動画公開」を即断。
機密保護の観点から上がっていた慎重論は首相の怒りの前にかき消された。
「出してます。火器管制レーダー系出してます」。
動画再生から6分すぎ。
P1哨戒機が全景を撮影するため、高度を約300メートルから約450メートルに上げたタイミングだった。
搭乗隊員がレーダーを照射されたと機長に伝える。
「そちら(韓国軍の駆逐艦)から出てくるのは間違いなし」との音声も含まれていた。
動画を見た哨戒機の操縦資格を持つ海自幹部は
「レーダー照射は疑いようがない。海自側の対応は冷静で、飛行ルートや高度も通常通り。機微に触れる部分の音声は伏せられており、公開できるぎりぎりの内容になっている」
と解説した。
一方で、重要度の高い警戒監視活動の一端をインターネット上で公開するという手法には「正直出したくないのが本音だ」と漏らした。
主張変えず
「これほど近くに寄ってきたら、艦長をはじめ船員達は相当な危険を感じただろう」
韓国では28日夕、軍関係者が記者団に対し、日本が公開した動画を見ながら状況を説明した。
遭難した北朝鮮船を救助活動中だった駆逐艦の乗組員が危険を感じるほど、哨戒機が低空で飛行したー。
この関係者は従来の主張を繰り返した。
韓国国防省は声明で、動画は単に哨戒機が旋回する様子や、機長らの会話が入っているだけで照射の「客観的証拠」にならないとの立場を表明。
関係者の1人は「周波数の特性が明かされてこそ、どういうレーダーか把握することができる。それなのに特性を一つも公開していない」と不信感をあらわにした。
日韓の対立は激しさを増し「レーダー(問題の行方は)視界ゼロ」(聯合ニュース)の状況だ。
政府関係者によると、日本側は韓国に事実認定と再発防止策を要求し、「謝罪と処分」は求めない方向で模索を続ける。
問題をエスカレートさせないためにも、同盟国・米国には経過報告にとどめるとみられる。
外務省幹部は「韓国を追い詰め過ぎると、余計に韓国が引き下がれなくなる」と話し、今後の両国関係悪化に懸念を示した。
誰の得にもならない
伊豆見元東京国際大教授(国際関係論)の話
防衛省が公開した動画には漁船らしきものが映っており、遭難した北朝鮮船舶の救助をしていたとする韓国側の主張も裏付け、客観性があると評価できる。
日本としては出せる証拠を出し、やるべき対応は終わった。
あとは韓国が少しでも態度を軟化させれば落としどころが生まれるのかもしれないが、今の韓国の国内世論では日本に頭を下げることが難しいのではないか。
誰の得にもならない問題だ。
海自機の行動は適正
元海将の伊藤俊幸金沢工業大虎ノ門大学院教授の話
防衛省が公開した動画を見ると、海上自衛隊のP1哨戒機の行動は適正だ。
韓国海軍の駆逐艦と距離は十分離れており、低空飛行したとは見えない。
呼び掛けも複数の周波数を使い分けている。
駆逐艦が、無線を受信できていないとすれば、軍艦としての体をなしていない。
ただ動画は、乗組員の会話が主で、照射された電波を変換した音が入っていない。
編集してでっちあげたと言われたら反論しにくい。
防衛省は、当時の音声を全て公開すべきだ。
北朝鮮遭難漁船とされる船は、すでに発見していてレーダー捜索の必要はない。
海上で電波伝達を妨げるものはないので出力1Wでも受信可能だろう。
日本の経済水域内にいたこと、北朝鮮遭難漁船の救助活動中と言っているが、見られたくない事情があったのではないか。
日本の経済水域付近にいた北朝鮮漁船からの救助要請電波は日本側が受信しているのか。
そもそも、海難救助に軍艦も出動するのだろうか。
181229 日韓対立 視界ゼロ レーダー照射動画