Cameraと散歩

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230122 北海道似湾編 カケス7の6

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履 歴 稿    紫 影子  

北海道似湾編
  カケス 7の6


 「カケスはなあ、良く馴れると物真似をするようになるぞ。」と言って、保君は帰って行ったのだが、それは全くの事実であった。
と言うことは、玄関を這入った土間の正面に、石油の空箱を台にして、その上にカケスの巣箱を置いたのであったが、毎朝餌をやる時の私が「お早う」と、カケスに呼びかけて居ると、10日程たったある朝のそうした時に、それは不完全な発声と語調ではあったが、どうにか「お早う」と聞きとれるように、カケスが応答をしたからであった。





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 私は、このカケスをとても可愛がったのだが、それは捕えてから二ヶ月程経過をした或る朝のことであった。

 いつものように、餌をやろうと巣箱の前に立った私は、思わず「オヤッ」と、声を出して巣箱の隅を凝視した。

 その頃では、私が餌を持って巣箱の側へ近づくと、「お早う、お早う」を連発して、バタバタと羽搏くまでに慣れて居たカケスが其処に斃れて居た。

 私は吃驚と言うよりも周章てて保君の家走った。





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 私が、「保君」と叫んで勝手口から飛び込むと、丁度洗面を終ってタオルで顔を拭いて居た保君は、私の周章かたに相当吃驚をしたらしく、「どうしたんだい、朝っぱらからそんなに周章てて。」と言いながら私の傍へ寄って来た。
 「保君、すまん、カケスが死んでしまったんだ。」と言って、私は保君に頭を下げた。

 「なんだ、カケスが死んだのか、大したこと無いじゃないか、大体一番先に罠に飛びつく奴はなあ、年寄カケスなんだ、だからあまり長生出来ないんだよ、なあに心配するなよ、また捕まえてやるよ。」とこともなげに保君は言ってくれたのだが、彼が苦心をして、折角捕えてくれたカケスを殺してしまったのは、私の飼育方法に欠陥があったのではなかろうか、と言う自責の念で胸が一ぱいであった。



221124 北海道似湾編 カケス 7の5

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履 歴 稿    紫 影子  

北海道似湾編   カケス 7の5

 保君と私が、出入口にぶら下がって居る莚の隙間から、じっと覗いて居ると、その内の一羽が罠の唐黍を狙って急降下をした。

 その瞬間、私はハッと息をのんだ。
するとその急降下をしたカケスが、「ギャ、ギャ、ギャ」と、けたたましく鳴き出した。

 「オイ、捕れたぞ。」と言って、保君が飛び出したので、「それっ」と私もその後に続いたのであったが、昨日保君が「明日は屹度捕れるぞ。」と言ったとうりに、弓状に絞って仕掛けた柴木が直立に跳ね戻って居て、その先端に結びつけた麻紐に両足を縛られたカケスが、「ギャア、ギャア」と鳴きながらもがき羽ばたいて居た。

 「オイ、どうだ捕れたろう。」と、私を振返った保君が、「お前の家に何か空箱無いか、カケスの巣箱を作るんだ。」と言ったので、私は急いで家へ駆け込んで、「お母さん、カケスを捕ったので巣箱が欲しいの、だから物置にある空箱を一つ使っても良いでしょう。」と頼んで、引越荷物に使った莨の空箱を一個持ち出した。




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 「オイ、この箱でどうだ。」と、私が呼びかけると、「オオ、これは大きいから良い巣箱が作れるぞ。」と言って保君は、雑木の茂みに這入って、萩の木を二十本程切って来た。

 「オイ、お前そのカケス足縛った儘で抱いて居れよ、ぶらさげて居ると飛び廻って足を折ってしまうぞ。」と私に注意をしておいて保君は、自分の家から鋸と釘、それに金槌を持って来て、空箱の蓋の面に、萩の木を間隔良く釘で打ちつけた。

 勿論、内部には泊木の施設をした。

 「此処から餌や水をやるんだぞ。」と言って、萩の木を格子形に打ちつけた左の下の所に、同じ格子形の小さな開扉が、針金の蝶番で細工をしてある所を開けて見せた。

 巣箱が完成すると保君は、私が抱いて居るカケスの足から麻紐を解きほどいて、「オイ、此処から入れてやれよ。」と言って、その開扉を開けたので、私は其処から巣箱の中へ、カケスを入れてやった。




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 窮屈であった足の緊縛を解かれて新しい巣箱へ入れられたカケスは、泊木から下へ、そしてまた泊木へと、しばらくは跳ね飛んで居たのだが、やがて遊び飽きたものか、それとも巣箱に馴れたものか、泊木へ泊って、私達の顔をキョロキョロと見くらべながら「ギャ」と鳴いた。

 それまで、そうしたカケスの動向をじいっと見つめていた保君が、懐から紙袋を取出して、中に一杯這入って居た唐黍の粒を巣箱の中へばらまいた。

 しばらくはその唐黍の粒と私達の顔をキョロキョロと見比べて居たカケスであったが、やがて泊木から飛び降りて、コツコツと小さな音をたてて唐黍の粒を哺み始めた。

 「オイ、これでも馴れたんだぞ。」と言ってから、「おおそうだ、水をやらなきゃ駄目なんだ。」と保君は、自分の家から缶詰の空缶を一個持って来て、それに満満と水を注いだのを、巣箱の中へ入れると、転倒防止のために針金で萩の木の格子に縛りつけた。



221026 北海道似湾編 カケス 6の4

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履 歴 稿    紫 影子  

北海道似湾編
  カケス 6の4


 「明日は、罠を作って必ず捕てやる。」と保君は言って居たのだが、Y形の二本の木と萩の木二本が、どんな作用であの鳥を捕えるのかと言うことは、私には全然想像がつかなかった。
 併し、私は「明日はかならず捕れる。」と言った彼の言葉が、頼もしく思えてとても嬉しかったので、その夜はなかなか寝つかれなかった。

 その翌日、学校から帰ると、早速保君は、鉈と細い麻の荷造紐を持って、物置の出入口の所から私を呼んだ。
 私は、早速筵の垂下って居る出入口から表へ出て二人で桂の木の下へ行って罠の工作に取りかかったのだが、勿論、私は保君の助手であった。




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 最初保君は、近くの柴木を数本弓状に絞って見て居たが、やがて適当なものが見つかったとみえて、その木の枝を切り払った、そうして彼は、その木を数回弓状に絞って弾力試験をして居たが、「よし、此奴に決めよう。」と呟いて、根元から二米程の所を残して上部を切り捨てると、再び弓状に曲げて「この儘にして持って居れよ。」と私に言いつけて自分は、昨日作ったY形の木を、弓状に絞った儘で私が持って居た柴木の先端の所へ約二十糎程を土中へ差込むと、残りの一本を其処から約七十糎程離れた所へ、矢張り二十糎程を土中に差込んだ、そしてその双方のY形を向き合わせた。

 それからの彼は、持って来た麻紐を二米程の長さに切って、その一端に拇指が潜る程の輪を作ると、残りの一端をその輪に潜らせて、その先端が四十糎程残るように、私が持って居た柴木の先端へ三巻程巻いて結つけると、「もう放してもいいわ」と言ったので、私がパッとその柴木を放すと、先端の麻紐に空中へ半円の弧を描かせて勢い良く跳返って揺れの止まるまで、その麻紐を揺ぶって居た。




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 それからの保君は、その柴とY形の木に、適当に短かく切った萩の木と麻紐を使って細工をして居たのだが、やがて完成したと見えて、「よし、今度は此奴」と、麻紐を垂れ下げた柴木を弓状に絞って、罠を仕掛けた。

 保君が罠を完成したのは、丁度昨日カケスが飛んで来た頃の時刻であった。
 待つ間も無く遥かな空から、群鳴くカケスの声が聞こえて来たので、「オイ、来たぞ」と言って二人は物置の中へ隠れたのだが、カケスは昨日と同じように六羽程の群れが飛んで来て桂の木に止まった。