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141217 自公勝利 世界の目 英国 保守化の加速懸念

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141217の朝刊記事

自公勝利 世界の目 英国 保守化の加速懸念

ロンドン大学東洋・アフリカ研究所准教授(日本政治) クリステン・スーラック


今回の衆院選で自民、公明の与党が「大勝」したとの見方には疑問がある。
確かに自民党は全小選挙区の7割以上で議席を獲得したが、得票率は過半数に達していない。
公示前の議席からも減らしており、「あいまいな勝利」というべきだ。


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注目すべきは、53%を切った戦後最低の投票率だ。
これほど低い投票率は民主主義の危機と言える。
自民党以外に投票したい人が選択肢となる政党を見いだせず、投票所に足を運ばなかったのではないか。
投票率の低さには、安倍政権への批判が含まれていると見るべきだ。
代替策を提示できなかった野党第1党・民主党の責任は極めて重い。


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自民党に投票した人の多くは経済政策「アベノミクス」に期待したのだろう。
恩恵を受けていない地方の人も「もう少し我慢して成長する日が来るのを信じよう」と考えたに違いない。
20年以上続く景気低迷から脱したい、という気持ちは理解できる。
だが利益が出ているのは巨大な輸出企業ばかりで、中小零細は苦しんでいる。
アベノミクスは地方や庶民に恩恵があるのか、今後も注視が必要だ。


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深刻なのは安倍政権下で格差がますます拡大し、二極化が進んでいることだ。
非正規雇用の労働者は約4割に達し、若者の多くが人生設計を描けず結婚もできない。
共産党議席を2倍以上に増やした背景に、貧困層の増加がある。
もう一点、憲法改正が現実味を帯びる中、同党が一貫して憲法改正に反対してきたほぼ唯一の政党だということも、躍進の理由になった。


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日本社会全体の右傾化が加速しているとは思わないが、安倍政権下で右派勢力が勢いを増しているのは確かだ。
特定秘密保護法で明らかになったように、安倍首相は今後さらに保守色の強い政策を推進する構えで、憲法改正まで見据えている。
憲法9条をどうするのか、戦後の平和主義を根本的に転換するのか、国際社会は大きな関心を持っている。
中国や韓国など近隣諸国との関係がますます不安定になることを懸念している。


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「この道しかない」という安倍首相のスローガンは、英国のサッチャー首相が1980年代に頻繁に使った言葉を模倣したものだ。
しかし、別の道は必ずある。
現に英国は90年代に政権交代し、サッチャー氏の評価は今も割れている。
時間がかかっても有権者に選択肢を提示していくことが、本来の民主主義である。

聞き手・志子田徹