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160504 「原発避難民」の心を荒廃させた「補償金」ジャブジャブの日常 2-2

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原発避難民」の心を荒廃させた「補償金」ジャブジャブの日常 2-2

ともあれ、楢葉町から避難してきた60代の男性は、自ら手にした補償金の金額をこう明かした。
「震災直後、私たち夫婦と息子の家族を合わせて7人で借り上げ住宅に避難しました。楢葉町の自宅や田畑などの賠償金は約2,000万円でした。息子は楢葉町ではレンガの製造会社に勤めていましたが、今はいわき市の生コン会社に転職。息子の嫁は町の役場でパート仕事をしていました。ですから、家族全体で精神的損害賠償金は70万円、震災前の収入補償などを加えれば、一時は月収が200万円近くになりました」


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今年2月に廃止されるまでは、避難先であらたな職に就いて収入を得るようになっても、上限50万円までは収入補償から差し引かれなかったという。
例えば、震災前の給料が100万円だとすると、それは東京電力から補償され、さらに避難先の職場で稼いだ給料が50万円までなら、合計150万円がそっくり手に入った。
そのため、楢葉町のこの家庭も、高給で知られる外資系金融機関並みの月収を得ることができたのだ。 なおかつ、家賃は無料、医療費は免除され、所得税地方税も支払う必要がない。
大盤振る舞いとも言える補償金によって、“原発避難民バブル“が起きるのは当然といえば当然のこと。



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1兆8千億円の補償金

現在、いわき市は新築ラッシュ。
「以前は一戸建てなら3,500万円程度だったのに、一気に5,000万円以上に値上がりした。なかには、アパート経営を始めたいという避難民が、15部屋の新築アパートを1億5,000万円のキャッシュで購入したケースもある。不動産売買をしている人の9割方は原発避難民。煽りを喰った地元のサラリーマンなどは、高額過ぎて一軒家には手が出せなくなってしまいました」「(地元不動産業者)

場所によっては地価が2倍以上に跳ね上がった地域もあるという。


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これまでに、東京電力が約8万人の原発避難民に支払った補償金は、ざっと1兆8,000億円。
単純に計算すれば、1人平均約2,300万円が懐に入ったことになる。
しかし、その一方で、いわき市民に支払われた補償金は8万円(妊婦と18歳以下の場合は40万円)に過ぎない。
これでは、やっかみの感情が芽生えても致し方あるまい。



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“住民票を移すべき“

結局のところ、いくら補償金をばら撒いても、原発被害者の自立支援の役には立たず、ただ単に、地元住民との間に深刻な軋轢を生じさせているだけにも見える。
いわき市被災者支援に携わっている、NPO法人の代表はこう指摘する。
「現状は、補償金という麻薬の中毒患者を蔓延させているようなもの。札束で避難民を黙らせ、避難民もそれを当然の権利のように思い込み、その立場に胡座をかいているようでは自立できません。何もかも失い、着の身着のままで逃げるほかなかった避難民は、想像を絶する辛苦を味わいましたし、補償金が必要ないと言うつもりは毛頭ありません。ですが、いつまでも悲劇を引き摺っているだけでは何も解決しないのです」


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さらに、震災当時、いわき市の市長だった渡辺敬夫氏が述べるのは、こんな意見だ。
「震災3カ月後には、地元住民から避難民に対する苦情が寄せられました。ゴミの分別をしないとか、昼間からパチンコ屋に入り浸っているとか。遊び呆ている避難民が、商店街の食堂で昼間から酔っ払って席を譲らないので、市の職員がお昼ご飯を食べられずに戻ってきたという話も耳にした。そういうことが積み重なり、地元住民とギクシャクするようになった」


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解決のためには、なによりも避難民が住民票をいわき市に移すべきだという。
仮設住宅に暮らしているならまだしも、いわき市で仕事をし、自宅も買ったような人が、なぜいわき市民にならないのでしょうか。確かに、住民票を移せば固定資産税や住民税を納めなければならなくなる。でも、それくらいの負担もしないで、コミュニティーの一員として認められるはずがないのです」


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東京電力原発避難民への補償金は、原子力損害賠償支援機構からの交付金によって賄われている。
いずれ、原子力発電所を持たない沖縄電力以外の全国の電力会社で返済しなくてはならず、その分が電気料金に転嫁されることは自明だろう。
惜しげもなくジャブジャブと注ぎ込まれる補償金のツケは、国民全体に回ってくるのだ。



’14.7.31週刊新潮から抜粋