’19/01/10付の北海道新聞朝刊3面の記事
日本、対抗措置踏み切る
徴用工 協議要請
元徴用工訴訟を巡り、日本政府が日韓請求権協定に基づく政府間協議を要請し、日本企業の資産差し押さえに動く韓国側への対抗措置に踏み切った。
安倍晋三首相や自民党保守派の意向を反映した形だが、政府間協議には韓国政府の同意が必要で、問題の解決に結びつくかは不透明。
韓国海軍艦船による海上自衛隊機への火器管制レーダー照射問題でも応酬が続いており、日韓関係がさらに悪化する可能性が高まっている。
韓国、対処方針示さず
「誠に遺憾だ。事態を深刻にとらえている」。
菅義偉官房長官は9日の記者会見で、韓国側の新日鉄住金の資産差し押さえの動きに、厳しい口調で政府間協議を要請することを宣言した。
その後、外務省の秋葉剛男事務次官は李洙勲駐日韓国大使を同省に呼び、政府間協議を申し入れた。
李氏は「今、両国関係は非常に難しい状況だ」と述べ、硬い表情で同省を後にした。
韓国最高裁が新日鉄住金に元徴用工への賠償を命じたのは昨年10月末。
11月末には三菱重工業にも同様の判断を下した。
戦時中の請求権問題は協定で解決済みとする日本側は、判決は国際法違反だとして、協定と矛盾する状況を是正するよう韓国側に求めてきた。
慎重論押し切る
しかし、韓国では昨年末に原告側による資産差し押さえの手続きが始まり、首相は今月6日放送のNHK番組で「毅然とした対応を取る」と明言。
日本側は対応策の検討を進めていた。
外務省には慎重論もあったものの、首相の意向や自民党内の韓国批判を受け、差し押さえ通知を確認した段階で対抗措置へかじを切った。
韓国側に差し押さえた資産の売却を思いとどまらせる狙いもある。
日本側は今後、政府間協議を目指し、解決できなければ第三国を交えた仲裁委員会を視野に入れる。
だが韓国側が応じなければ協議を始められない上、返答期限など細かい手続きも定まっていない。
国際司法裁判所(ICJ)への提訴も探るが、これも審理には韓国の同意が必要だ。
文氏は妥協困難
一方、韓国側は明確な方針を示していない。
韓国外務省は9日、「綿密に検討する予定だ」とのコメント発表にとどめ、韓国メディアでは「韓国政府はひとまず仲裁委の設置やICJへの提訴は全て受けない」(朝鮮日報）との見通しが報じられている。
韓国政府の対応策の検討状況に関しても、韓国大統領府は記者会見で「首相室で立場が整理されれば公開される」と述べただけだった。
文在寅大統領は10日に国内外メディア向けに記者会見するが、海自機のレーダー照射を巡る対立などもあって韓国内の対日感情は悪化しており、妥協策は打ち出しにくい状況だ。
今年は日本からの独立を求めた「三・一運動」から100年の節目に当たるほか、元徴用工訴訟で同様の判決が相次ぐ見通しで、反日ムードが高まる可能性もある。
日本政府内では、さらなる対抗措置として韓国製品の関税引き上げや、査証(ビザ)の発給規制なども取り沙汰される。
北朝鮮問題など日韓の協力が欠かせない難題が待ち受ける中、報復の連鎖がさらに深刻化す虞は否定できない。(十亀敬介、ソウル 幸坂浩)
差し押さえ 極めて遺憾 新日鉄住金
新日鉄住金は９日、元徴用工訴訟を巡り同社資産の差し押さえ決定の通知を受けたことについて「極めて遺憾だ。日本政府にも相談の上、適切に対応していく」とコメントした。
通知をけた対象は、韓国鉄鋼大手ポスコとの合弁会社である「PNR」の株式。
新日鉄住金は3割出資しており、PNＲ株の売買ができなくなる。
PNRは2008年に設立し、鉄の生産過程で発生する「鉄製ダスト」をリサイクルする事業を手掛けている。
新日鉄住金は今後もポスコとの協業を継続する方針だ。
韓国外務省の声明(全文)
韓国外務省が9日、元徴用工訴訟をめぐる日本の抗議と協議要請を受けて発表した声明全文は次の通り。
1、日本側の請求権協定上の両者(二国間)協議要請については綿密に検討する予定だ。
1、政府は強制徴用被害者に対する最高裁判決(10月30日と11月29日)や司法手続きを尊重するという基本的な立場の下、被害者の精神的な苦痛と傷を実質的に癒やさなければならないという点や、未来志向的な韓日関係などを総合的に勘案し、対応策を用意していく。
1、このような状況で不必要な葛藤や反目を起こすことは問題解決にまったく役に立たないとみており、冷静かつ慎重に状況を管理することが必要だ。(ソウル時事)
