‘19/01/11日付北海道新聞朝刊2面の記事
徴用工 日韓遠のく決着
文氏「日本は謙虚な立場を」
専門家「譲歩は困難」指摘
韓国の文在寅大統領は10日の年頭記者会見で元徴用工問題を巡る日本の対応を批判した。
問題の根源は過去の植民地支配にあるとして、責任がある日本は「もう少し謙虚な立場を持たねばならない」と反撃。
植民地支配への独立運動100周年をを3月に控え、文氏には日本が求める「韓国内での決着」を図ろうとする姿勢は無い。
「過去、韓日間には不幸な歴史があった。(今回の問題は)韓国政府がつくったものではない。過去の不幸な歴史のためにつくられたものだ」
10日、ソウルの韓国大統領府。
国内外の記者約180人が参加した会見で、終盤に出た元徴用工問題への対応を問う質問に文氏は少し考え間を置いた後、断固とした口調で話し始めた。
約35年間の日本の支配下で起きた元徴用工問題。
最高裁判決を「1965年の日韓請求権協定違反だ」と主張する日本の政権中枢に対し文氏は、「たびたび政治争点化し、非難の材料にし、問題を拡散させている」と正面切って批判した。
日韓両国が解決へ力を合わせるべきだとの考えを示しながらも、自国企業の権益保護を目的に日本政府が求めた請求権協定に基づく政府間協議に応じるかは答えず、日韓の共同の努力は「被害者の苦痛を癒す」方向に向けねばならないと主張。
日韓が描く「解決」の姿は完全に食い違う。
韓国では建国の時期を巡り、独立運動家による「大韓民国臨時政府」樹立に由来する19年だと主張する文氏ら革新系と李承晩政権樹立の48年とする保守派の間で論争が続く。
100周年を盛大に祝うのは文氏の歴史観が強く反映されており、韓国の日韓関係に詳しい専門家は「記念の年に歴史問題で譲歩する姿勢を見せるのは難しい」と指摘する。(ソウル共同)
「是正責任 韓国側に」「深刻に受け止めているか」
日本側、不満広がる
元徴用工訴訟を巡る韓国の文在寅大統領の年頭会見での発言について、日本政府・与党からは10日、反発や不満の声が上がった。
日本側は日韓請求権協定に基づく政府間協議を要請しているが、事態収拾の道のりは遠のく一方だ。
「国際法違反の状態を是正する責任は韓国側にある。韓国政府から適切な対応が見られない状況は大変遺憾だ」。
自民党の岸田文雄政調会長は同日、党本部で記者団に不快感を示した。
文氏は会見で解決策を示さず、政府間協議についても言及しなかった。
佐藤正久外務副大臣は自身のツイッターで、文氏が新日鉄住金に賠償を命じた韓国最高裁判決を「仕方ない」と述べたことに触れ「協議要請に回答しないばかりか、この発言とは」と批判した。
日本側は政府間協議で解決できなければ、第三国を交えた仲裁委員会の開催や国際司法裁判所(ICJ)への提訴も視野に入れるが、いずれも韓国側が応じない公算が大きい。
李洛淵首相を中心とした解決策の検討もいつ結論が出るか分からない状況だ。
文氏は会見で「お互いに知恵を出し合うことが重要だ」と強調。
日本の外務省幹部は「自民党保守派などの突き上げがある中、辛抱強く解決策の回答を待っているのに、韓国は深刻に受け止めているのか」と不満をあらわにした。 (十亀敬介、津田祐慈)
地域情勢動けば解決も
東京大大学院の木宮正史教授(朝鮮半島地域研究)の話
日韓請求権協定の締結の際に十分議論できなかった「未解決」の問題には、文在寅大統領が会見で述べた通り、日本政府も謙虚に向き合う姿勢が必要だ。
しかし元徴用工訴訟で現状変更しようとしているのは韓国側で「日本は政治争点化するな」との批判は理解しがたい。
三権分立の原則は当然だが、文氏の発言が「最高裁判決を尊重するので行政は何もできない」という主張だとすれば、国際的には通用しない。
大きな政治判断が働く外交の論理も認識する必要がある。
基金などによる補償案は韓国内ではまだ生煮えとみられ、問題は長期化しそうだ。
仮に、米朝関係など地域情勢が大きく動けば、日韓とも膠着状態の放置は得策ではなく解決に向かう可能性もある。
190111 徴用工 日韓遠のく決着 文氏「日本は謙虚な立場を」