’19/07/13付北海道新聞朝刊3面の記事
日韓 遠い外交解決
輸出規制巡り事務レベル会合 「説明」5時間半 道筋見えず
半導体材料の輸出規制強化を巡り初めて開かれた事務レベルの会合では、日韓のやりとりが約5時間半にわたる予想外の長さとなった。
日本政府は、軍事転用できる戦略物資の管理の甘さが韓国側にあったとして規制強化の正当性を主張。
韓国政府は輸出管理の不備を否定し、日本が世界貿易の秩序を破壊する措置を取ったとみる。
日本は輸出規制強化を半導体材料以外にも広げる考えで、外交的な解決の道筋は見えていない。
「戦略物資管理に甘さ」日本
「貿易の秩序破壊する」韓国
事務レベルの会合が開かれた経済産業省別館の会議室。
報道機関に公開された会合の冒頭、沈黙したまま対面する両国の担当者の横には、雑然といすが積み上げられ、カメラを意識するように「輸出管理に関する事務的説明会」と印刷された紙が張られていた。
「協議の場ではなく、あくまで事務的な説明の場」(経産省幹部)という日本の立場を強調し、韓国側をあえて冷遇した格好だ。
そもそも、会合の開催については、最初から双方の主張に隔たりがあった。
韓国側は成允模産業通称資源相が、日本と「協議」を行う場になるとの認識を示していたが、菅義偉官房長官は12日の記者会見で「事実確認を目的としたものだ」と強調。
会合で韓国側がどんな主張をしても受け付けないとの認識を示した。
輸出規制強化に対する見解も食い違っている。
日本政府が規制強化の正当性を主張する根拠となっているのが、安全保障上の懸念を理由にした輸出規制を認めている関税貿易一般協定(GATT)だ。
元徴用工問題をきっかけに韓国との信頼関係が崩れ、適切な輸出入管理がままならなくなったと訴える。
安倍晋三首相は7日のテレビ番組で「韓国は(対北朝鮮)制裁を守っているというが、元徴用工問題で約束を守らないことか明確になった。信頼できない」と発言し、韓国から北朝鮮向けに物資が横流しされている疑惑があることを示唆。
これに対し、韓国側は、兵器に転用できる物資の無許可輸出を摘発した事例が過去約4年間で156件あったと公表。
その中には、北朝鮮と関係が深いシリアやイランへの輸出案件も含まれていたが、韓国産業通商資源省は「適正に摘発した結果だ」と主張する。
逆に、韓国が日本に対し輸出規制の撤回を求める根拠としているのが自由貿易の重要性だ。
9日に開かれた世界貿易機関(WTO)の物品貿易理事会でも、輸出規制強化は「貿易をゆがめる措置だ」と非難。
11日には康京和外相が米国のポンペオ国務長官と電話会談し、輸出規制強化は世界経済に悪影響を及ぼすと懸念を伝えるなど、国際世論に訴える戦略を取る。
韓国大統領府関係者はWTOへの提訴も準備しているとした上で「時期は戦略的に決める」と話す。
だが、日本政府は韓国に同調する国は少数にとどまっていると分析。
日本外交筋は「日本は、北朝鮮が絡む韓国の不適切な行動の証拠を複数押さえている。韓国側の出方次第でいつでも国際社会に向けてカードを切れる」と韓国へのけん制を強める。
日韓関係が悪化した原因である元徴用工問題の行方も不透明だ。
日本政府は日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の開催を要求しており、18日には仲裁委員を出す第三国を指名する期限を迎えるが、韓国側は応じない方針だ。
日本政府は今後、韓国側が仲裁委員会開催や輸出管理体制の是正策を講じない限り、輸出規制強化を堅持する構え。
半導体材料以外でも輸出手続きで優遇する「ホワイト国」から韓国を除外する方向だ。
そうなれば、すでに規制が強化されたフッ化水素など3品目以外でも輸出手続きに時間や手間がかかるようになり、韓国の製造業や日本を含む世界のサプライチェーン(部品の調達・供給網)への打撃も懸念される。
韓国では、一部で日本製品の不買運動が起きている中、優遇国から除外されれば、民間交流への影響が出てくることも懸念される。 (上家敬史、ソウル 幸坂浩)
韓国 対北朝鮮制裁違反を否定
国際機関で調査 提案
【ソウル幸坂浩】韓国大統領府の金有根国家安全保障会議(NSC)事務処長は12日の記者会見で、日本政府による輸出規制強化に関連し、日韓両国に対北朝鮮制裁違反がないか確認するため、適切な国際機関に調査を依頼することを日本側に提案すると発表した。
韓国に違反が見つからない場合には日本の謝罪を求めるほか、「報復的性格の輸出規制措置も直ちに撤回すべきだ」と述べた。
この提案について、日本政府関係者は「当事国同士で解決の努力をするのが先決」と述べ、当面、静観する考えを示した。
金氏は、日本政府高官が根拠を示さずに韓国が制裁を履行していないことを示唆する「無責任な発言を続けている」と遺憾を表明。
「(韓国は)対北朝鮮制裁決議を徹底的に遵守し、模範的に、非常に透明に履行している」と述べた。
調査については、国連安全保障理事会の専門家委員会などに依頼すべきだと提案。
「日本の違反事例に関する、徹底した調査も実施しなければならない」と強調した。
190713 日韓 遠い外交解決 輸出規制巡り事務レベル会合 「説明」5時間半 道筋見えず