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201224 中国の監視 国際社会 香港の民主派弾圧

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’20/12/24 付北海道新聞朝刊6面各自核論の記事

中国の監視 国際社会で

香港の民主派弾圧     東京外国語大準教授 倉田 明子


 12月2日、香港で周庭氏ら3人の若者に実刑判決が下された。
昨年6月の警察本部を包囲する無許可集会を扇動したなどとして起訴された裁判である。
組織者とされた黄之鋒氏は13月半、周氏は10月の禁固刑となった。
情状酌量による減刑を見越し、罪を認めていたが、その法廷戦略は効かなかった形だ。

 だが、民主活動家の3人がこの集会を組織、扇動したと見なすのには無理がある。
昨年の香港の抗議活動はインターネット上での匿名の議論から発生したリーダーのいない運動である。

 この案件で、黄氏が呼び掛けたのは包囲を続けるか否かの投票であり、結局それも機能しなかった。
現場に彼らのリーダーシップはなかったにもかかわらず、リーダーと見なされ、起訴されたのである。




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 英国と同じコモンローの法体系下にある香港では、本来、過去の判例によって判決を下す。
今回の場合、特に周氏は前科もなく参与の度合いも軽微なため、量刑は社会奉仕になることも想定された。
ところが社会奉仕はおろか、執行猶予も付かない判決となった。
9日には周氏の上訴期間中の保釈申請も却下された。

 今、香港で起こっている異変はこれだけではない。
昨年来のデモに関連した逮捕者はすでに1万人を超えた。
起訴も2千人を超え、大量逮捕と起訴による市民への威嚇の意図が明らかだ。

 6月末の国家安全維持法の施行は香港の自由の縮小に拍車をかけた。
8月には周氏や、中国に批判的な香港紙、蘋果日報の創業者黎智英氏らが同法違反容疑で逮捕された。
また周氏と共に逮捕された若者らが保釈中に仲間と台湾への密航を試み、中国の領海で拘束された。
現在、逮捕され中国国内にいるとみられるが、情報はほとんどなく、家族との面会すらできていない。




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 選挙が1年延期された立法会では突如、香港政府によって4人の民主派議員の議員資格が剥奪された。
抗議のため辞職した議員の1人は12月3日、亡命を表明した。

 11日には外国勢力との結託により国家の安全に危害を加えた罪を問われている黎氏が起訴された。
香港の自由や三権分立を破壊し、歯向かう者を力ずくで沈黙させようという中国政府の姿勢があらわになってきている。

 イギリス統治時代の香港に民主的制度はなかったが、人々は放任され、自由だった。
自由の歴史が途絶えたのは第二次世界大戦中の日本占領期だけだ。
香港は今また力による管理、不自由な社会への転落に直面している。
私たちは目を背けてよいのか。




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 周氏や黄氏は香港の危機を海外に発信してきた。
周氏の発言は日本に向けたものも多い。
今回の厳しい判決は、口封じであると同時に見せしめでもある。
中国政府による弾圧を止めるには国際社会の監視しかない。

 周氏は8月に逮捕された際、日本発の「#Free Agnes」(アグネスは周氏の英語名)のツイッターのことを弁護士から聞き、力づけられたという。
今やはるかに厳しい状況にある彼女と、香港の窮状に対して、日本社会は忘れることなく声を上げ続けるべきではないか。

 私も含めた日本の学者や弁護士らも、不当な逮捕・収監に抗議し弾圧を即時やめるよう求める声明を出し、ネット上で署名を呼び掛けている。



210528-201224 6面香港の民主派弾圧