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201224 自己責任主義際立つ日本 生きたいと思える国に

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’20/12/24付北海道新聞朝刊6面各自核論

自己責任主義際立つ日本   京都大人文科学研究所准教授 藤原辰史
  生きたいと思える国に

 日本は、私たちが生きたいと心から思える国だろうか。

 こんな漠然とした問いを立てたくなったのはウェブに公開されている明治大学鈴木賢志研究室の統計を閲覧したからである。
昨年の統計では、日本の国内総生産(GDP)は中国からダブルスコアをつけられ3位である事は知っていた。
しかし、一人当たりのGDPが世界179国中26位、格差をあらわすジニ係数は税金や社会保険料を差し引き、社会保障給付を加えた再分配後で、数字のある42カ国のちょうど真ん中、税引き後の貧困率(所得が国民の平均値の半分に満たない人の割合)も39カ国中12位と高く、最低のアイスランドの3倍以上、という事実を私は理解していなかった。




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 日本が突出している数値をみよう(調査年は項目によって多少ばらつきがある)。
「暮らし向きの良い人は、経済的に苦しい友人を助けるべきだという人の割合)は32カ国中最も低く、「所得の格差を縮めるのは、政府の責任であると思う人の割合」も34カ国中29位。
さらに、「今、あなたの国で最も重要な問題は何だと思いますか」という質問に対し、「経済」と答えた国の1位はダントツで日本であり、58%、2位のチェコよりも15ポイント近く高い。
そして、結婚したパートナーで男性の方が所得が高い比率は88.3%で37カ国中1位であり、韓国とは19ポイント、中国とは27ポイント近く差をつけられている。

 まとめてみよう。
日本では、先進国の中で格差や貧困率が大きく、男女の経済格差は最大だが、政府が最優先すべき課題は経済問題であり、格差を是正するのは国でも富裕層でもなく、自分の努力だと国民が思っている。
菅首相の理念である「自助・公助・共助」で、自助が最初に掲げられている意味がよくわかる。




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 しかし、私たちが本当に生きたい国は、果たしてこんな国なのか。
コロナ禍の最前線で厳しい仕事に従事する看護師、清掃員、介護士、保育士たちは相変わらず賃金が低く抑えられたままだ。
日本政府は経済成長に邁進し、男女格差も経済格差も本腰を入れず、厳しい競争にさらされているうちに他者を救おうという気持ちも失い、苦境に陥ったらご自分で、という「経済政策」をとり続けた。
保健所も学校も文化施設も効率的でないと削り続け、そんな政府を批判する研究者の排除まで手を染めてしまったが、ここまで地金が出たホモ・エコノミクス(経済的人間)たちの政治では、コロナ禍に通用しないことがもうはっきりと見えた。
菅政権の支持率の急落は、その証左のひとつにすぎない。

 世界中の国が似たり寄ったりの自己責任主義を取ってきたが、コロナ禍がそれに否を突きつけた。
コロナ禍だけではない。
いつまで続くかわからない経済不況も、たびたび襲いかかる自然災害も、自己責任主義の弱点を毎回洗い出してきたではないか。




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 日本は世界の中でも突出して自己責任主義的国家であることは、この時期、最大の危機であると共に最大のチャンスにほかならない。
世界に先駆けて自己責任論を放棄し、富と苦しみを共有し分散できる経済政策を打ち出すチャンスに、最も近い位置に私たちは今立っているとも言えるからだ。



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