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210126 先住民族の声聞くべき

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’21/01/26付北海道新聞朝刊5面の記事

核のゴミどこへ シリーズ論評
 先住民族の声聞くべき     明治大教授 石山紀子氏(49)

 「We will tell them.(私たちが彼らに伝えます)」。
原子爆弾の開発や冷戦期の核兵器製造で放射能に汚染された土地に暮らす米国の先住民族のリーダーは、放射能の危険性を遠い未来の世代にどう伝えるかを話し合う場で、そう言ったという。
生まれ育った土地と世代間のつながりを大切にする先住民族の自負を感じた。




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 私は米国の核開発と先住民族について研究している。
米国では原爆にせよ原発にせよ、核関連施設が先住民族の土地を奪い、生活や文化を破壊した。
国の安全保障のために犠牲となる場所が出るのはやむを得ないと考えられ、辺境に追いやられていた先住民族居留地や伝統的な生活圏が「犠牲区域」にされた。

 辺境の過疎地に原発が立地する日本にも通じるものを感じる。
特に昨年、後志管内の寿都町神恵内村で、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分地選定に向けた調査が始まったことは、米国の犠牲区域を思い起こさせた。
北海道はもともとアイヌ民族の土地だ。

 東京の大学で昨年、米国の犠牲区域について講義した時、何人もの学生が、寿都と神恵内の動きに重ね合わせた感想を寄せた。
核のごみが出るとも知らずに電気を使い、それが仮に北海道に押しつけられるとすれば、自分も加害や差別の側に回ると気づいたという学生もいた。




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 水俣病患者に寄り添った故・原田正純医師は「差別されている場所に公害というしわ寄せが来る」と話していた。
公害が差別を生むのではなく、差別や不平等のあるところに公害が来る。
核のごみの処分場など迷惑施設も同じことが言えるだろう。
逆に言えば、差別がなくならない限り、犠牲区域もなくならない。

 原爆の開発も原発の建設も、国策を決める時点の意思決定に、犠牲区域となる場所に住む人々は関わっていない。
原発を動かして核のごみが出て、どこかで処分しないといけないからと、辺境の過疎地に負の遺産を押しつけるのは、不正義で理不尽だ。




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 道内で進む核のごみの処分地選定の動きに対して昨年10月、アイヌ民族や研究者らでつくる団体が抗議声明を出し、アイヌ民族の同意が必要だと訴えた
まるで先住民族がいなかったかのように調査を進めるのは、明らかに正義に反する。
今そこに住んでいる人たち、その土地を故郷と捉える先住民、様々な声を聞く必要がある。

(聞き手・編集委員 関口裕士)




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