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201110 大統領選 バイデン氏勝利 分断修復し世界と協調を

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’20/11/10付北海道新聞朝刊9面社説から

大統領選 バイデン氏勝利 分断修復し世界と協調を

 大激戦となった米大統領選は、民主党のバイデン前副大統領の勝利が確実になった。

 共和党トランプ大統領は信任を得られなかった。
再選を目指した現職が破れるのは28年ぶりだ。

 選挙で問われたのはトランプ流の是非だった。

 トランプ氏は4年間、不都合な事は「フェイク(うそ)」と断じ、批判勢力を攻撃して社会の分断と混乱を深めた。

 その身勝手な政治手法に国民は疲弊した。
反トランプ票の受け皿になったのが、穏健な中道派の重鎮であるバイデン氏だ。

 記録的に高い投票率もあり、バイデン氏の総得票数は7500万票以上で史上最多だった。
ただ、トランプ氏も前回を上回る7千万票超を獲得した結果は、社会の二局化を改めて示すものでもある。




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 バイデン氏は「分断ではなく、団結を目指す大統領になることを誓う」と勝利宣言し、米国社会の結束を最優先する考えを強調した。
来年1月の就任に向けて、政権移行の作業に入った。

 トランプ氏は敗北を認めず、投票に「不正があった」として法廷闘争を続けるとしているが、根拠がなく手詰まり感が漂う。

 社会の融和を図り、安定に努める。
「米国第一」で足並みが乱れた国際協調を立て直す。
それがバイデン氏の使命である。




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格差と差別 解消急務

鍵を握ったのは、重工業の衰退したラストベルト(さびた工業地帯)のミシガンなど3州だった。

 前回はトランプ氏が製造業の復活を唱えて制したが、今回はバイデン氏が重点的に産業政策を訴え、労働者層に寄り添う姿勢を示して奪還した。

 トランプ氏の経済政策は保護貿易と、減税や規制緩和による大企業、富裕層の優遇が柱だった。
株高で好調な経済を弾みに再選を目指したが、そこを新型コロナウイルスが直撃した。

 感染者数、死者数とも世界最悪となり景気は急激に悪化したが、トランプ氏は経済活動の再開を急ぐばかりで科学的知見と人命を軽視し、対策は後手に回った。




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 バイデン氏は経済再開を急がず、感染拡大の防止を優先するという。
また、企業や高所得者への課税強化といった格差解消策に取り組むことを掲げる。
その姿勢が今の米国には欠かせない。

 コロナ禍で経済格差や貧困はより深刻になり、根強い人種差別がいっそうあらわになった。

 トランプ氏は支持者である保守層へのアピールを狙って人種差別を助長する言動を繰り返した。
白人警官による黒人男性暴行死が相次ぎ、抗議デモが全米に広がったが、理解を示すことはなかった。

 バイデン氏は副大統領に黒人、女性で初のハリス上院議員を指名した。
アジア系でもある。

 人種や宗教の多様性が活力の源になる。
かつての米国が大切にした理念を取り戻してもらいたい。




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米国第一 転換の時だ

 対外政策でトランプ氏は米国第一を主張し、対立も辞さない姿勢で世界を揺さぶってきた。

 イラン核合意や、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱し、世界保健機関(WHO)からも脱退を表明した。
 米国は多国間主義を牽引する役割を担ってきた。
しかしこの4年で、連携するべき欧州も「米国離れ」が目立っている。

 民主主義国のリーダーとしての米国の威信は大きく失墜した。

 バイデン氏は「米国が世界から尊敬されるようにする」とし、協調体制を再び目指すと明言する。

 特に気候変動対策を重視し、パリ協定復帰を断言していることは評価したい。
WHO脱退を撤回しコロナ対策に取り組むのも喫緊の課題で、早急に実行すべきだ。




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対中国は国際連携で

 憂慮されているのは「新冷戦」とも言われる中国との関係だ。
中国が覇権主義的な動きを強め、トランプ氏は貿易や技術、安全保障で対立を先鋭化させた。

 バイデン氏も強硬姿勢を変えないとみられているが、単独行動ではなく、国際社会と足並みをそろえる考えを示している。

各国と協力しながら中国に人権抑圧も含め自制を求めていく姿勢が重要だ。





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 トランプ氏は北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長と首脳会談を繰り返したが、北朝鮮は核・ミサイル開発を続けているとみられ、非核化への道筋は見えない。
ロシアも拡張主義的な動きを見せる。

 こうした国を含めた国際秩序の構築に向けて、民主主義の価値観を共有する国で手を携えたい。

 日本はトランプ氏と安倍晋三前首相が親密な関係を築くことで同盟を強化するとしたが、目立ったのは日本の対米追従だった

 言うべきことは言える対等な関係の下で、日本も国際協調の立て直しに尽力する必要がある。



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