210425 日中「新時代」はどこへ
’21/04/25付北海道新聞朝刊6面の記事
日中「新時代」はどこへ
編集委員 西田 浩雅
日本語にして6ページの文章に「中国」名指しが5回、中国牽制を含意する「インド太平洋」の表現が、見出し含めて15回も現れる。
けんかを売っていると取られても不思議はない。
菅義偉首相とバイデン米大統領が、先の首脳会談を経て発表した日米共同声明のことだ。
関係分野は安全保障、経済、環境と会談テーマ全域にわたる。
そしてなにより、中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題を52年ぶりに明記した。
まるで「対中同盟」の宣言である。
ちなみに安倍晋三前首相とトランプ前大統領が共同声明を出したのは、2017年2月と18年9月の2回。
「中国」「インド太平洋」という言葉は、そのどちらにも登場しない。
思い返せば1年前まで、日本政府は中国との関係改善に熱心だった。
安倍前首相は昨年の施政方針演説で「新時代の成熟した日中関係を構築していく」と強調。
4月に予定した習近平国家主席の国賓来日がコロナ禍で延期となった後も、秋の実現を探った。
その時点と比べれば、今回の声明は180度の転換だ。
この間、中国は香港への統制を強め、新疆ウイグル自治区での人権抑圧も深刻さを増した。
沖縄・尖閣諸島周辺での領海侵入も続く。
抑制を求める政治的圧力はもちろん不可欠だ。
だが日本側が今回、半世紀ぶりの方針変更に踏み込むだけの検討を尽くした形跡はない。
政権が交代しても継続性が求められる外交において、この手のひら返しは異様にも映る。
結局は米国に調子を合わせただけなのか。
そんな疑念が拭えない。
そのバイデン政権の対中姿勢も、どこかうさんくさいところがある。
大統領選ではトランプ氏に辛勝した印象のバイデン氏だが、その後の支持率は意外なほど安定している。
最新の世論調査では、59%がバイデン政権の仕事ぶりを支持すると回答。
オバマ政権の61%には及ばないもののトランプ政権の39%を上回った。
メディアが批判を控える100日間の「ハネムーン期間」であることを考慮しても、健闘との評価が大勢だ。
最大の要因はコロナ対応と200兆円に及ぶ経済対策で、トランプ氏の支持層も一部取り込んでいるようだ。
大統領選でバイデン氏は「中国に対して弱腰」と批判された。
中国に仕事を奪われたと感じている労働者層を意識した、トランプ陣営の戦術だ。
バイデン氏が当選後、対中強硬姿勢に転じたのは、その弱腰イメージを払拭し、支持層を広げる狙いだろう。
だがバイデン氏はオバマ政権の副大統領として、習氏と個人的な関係を築いてきた。
11年には次の最高指導者に内定していた習副主席の招きで訪中し6日間の滞在で5回会談したという。
大統領就任後、2月の習氏との電話会談は2時間に及んだ。
1月の菅首相との電話会談の4倍である。
互いの立場の違いを踏まえつつ、緊密に意思疎通しているとみるべきだ。
その上で国内向けには、対中国のファイティングポーズを維持したい。
首脳との最初の直接会談の相手に菅首相を選んだのも、その相方として好都合だったからではないのか。
中国は今回の日米共同声明に「強烈な不満と断固とした反対」を表明。
日本側では尖閣諸島への圧力強化や経済制裁を懸念する向きもある。
そうなれば日中間の対話は難しさを増す。
日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、永遠の隣国だ。
万が一にも台湾有事となれば、地理的に危険に直面するのは日本である。
米中の板挟みとなる事態をどう回避するのか。
一方の都合に振り回されて緊張を招いては、得策とはいえまい。