Cameraと散歩

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履歴稿 北海道似湾編 村の秋祭 9の6

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履 歴 稿    紫 影 子  

北海道似湾編   村の秋祭 9の6

 私はこの小沼での雑魚釣は、二年振と言う久しいものであったが、その二年前の私は、釣の要領が下手であったから、保君の半分程の数しか釣れなかった、併しその後の私が釣と言うものの要領を覚えてからは、その釣上げる瞬間の呼吸を、「うまい。」と言って、釣友達の連中からもてはやされる程に上達をして居たので、この日は保君のそれを遙かに凌いで、次々と面白い程に釣上げた。

 釣り始めてからは、凡そ一時間程の時間で私達三人は、ウグイ、ゴタッペ、鰌と言った雑魚を大小合わせて百二、三十尾、そしてその量は保君の大きな魚籃に八分目程釣ったのだが、その中には次弟が釣上げる度毎に、「釣った、釣った。」と、小躍をして喜んだ数尾も混って居た。

 「オイ、もう帰るべや、そろそろお昼になるぞ。」と言って、保君が私を促したので、「そうだなぁ、ぼつぼつ帰ることにするか。」と賛成をして、「義憲、もう帰るぞ。」と次弟を促したのだが、次弟は雑魚釣と言うものが余程面白かったと見えて、「俺、まだ釣るんだ、まだ釣るんだ。」と言って、駄駄をこねるので、私と保君はホトホト閉口をしてしまった。


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 「オイどうする、無理矢理連れて帰ろうとすれば、屹度泣き出すぞ。」と言って保君は、何か名案が無いものかと腕を組んだ思案顔の首を傾げて居た。

 この時、不図私の頭に浮んだのは、今朝局長さんから貰った十銭銀貨のことであった。

 「そうだ、これを義憲にやって釣を諦めさそう。」と思ったので、「義憲、お祭はなぁ、お昼からとても面白くなるんだぞ。そら太鼓もあんなに面白そうに鳴って居るだろう。義潔兄さんも俺達と一緒に家へ帰るんだから遅くなったら義潔兄さんに叱られるぞ。それに俺達だって遅くなったらお祭が面白くなくなるぜ。これお前にやるから、早くお祭に行って何か買えよ。」と言って私は、十銭銀貨を帯の中から取出して、次弟の目の前でちらつかせた。

 私のこの思付は完全に成功した。

 次弟は急いで釣糸を竿に巻いて肩に担ぐと、私の手から十銭銀貨を惋ぎ取って、すたすたと先頭を歩き出した。  



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 「オイ、俺も神社までお前達と一緒に行くから、帰る時に誘ってくれなあ。」と言う保君と、私達兄弟は、郵便局の前で別れた。

 私達兄弟が、郵便局へ帰った時に時計は、正午を少々過ぎて居たのだが、局長さんは未だ来て居なかった。

 兄は相変らず手押スタンプの練習をして居たが、私が朝に持って来たご馳走は、局長さんの机の上へ重箱と蓋を使ってきちんと三つに分けてあった。

 「おお、お前達帰って来たか。それではご馳走を食べるとするか。」と言って兄は、スタンプ練習用の古新聞を机の曳出しにしまった。

 私が三人で食い尽した空の重箱を重ねて、風呂敷に包んで居る所へ、「オイ、まだか。」と言って、魚籃をぶら下げた保君が這入って来た。

 「ウン、局長さんが来てから俺達は帰るんだよ。」と、私が言って居る所へ、「義潔さん、遅くなった、遅くなった、済まん、済まん。さぁ早くお祭に行きなさい。」と言いながら這入って来た局長さんは、次弟の頭を撫でて、「坊や、勘弁な。」と言って次弟に半白の頭をピョコンと下げた。