’18/10/31日の北海道新聞朝刊3面から
解決可能な余地残す
奥薗秀樹静岡県立大准教授(現代韓国政治外交)の話
最高裁としては、2012年の最高裁判決を踏襲せざるを得なかったのだろう。
ただ、(1965年の)日韓請求権協定では個人請求権だけでなく(自国民の被害救済を外交的に求める)外交保護権も放棄されていないと明言した12年判決とは違い、今回は外交保護権については曖昧だ。
韓国政府に「65年体制」を壊さずに解決できる余地を残し、配慮したとも解釈できる。
文在寅政権が朴槿恵前政権時の判決先送りを追求し、結果的に今回の判決を促す形になった。
一方で、韓国政府内にも「日本企業に実害が及ばないようにすべきだ 」という意見がある。
韓国政府は最近、雇用情勢の悪化から、若者の日本企業への就職を推進しており、日韓関係全般への悪影響を抑えるような対応を取るのではないか。
両国政府が直接関与しない形で、徴用した日本企業と、日本の経済協力の恩恵を受けた韓国企業が協力して財団を設立するといった解決策が模索される可能性もある。
とはいえ、日韓国交正常化の過程で玉虫色にして政治的に妥協した日本の植民地支配(1)の合法性の有無について、判決が違法性を明確にし重要な根拠にしているのは大きな問題だ。
この問題が政治・外交の場に持ち込まれれば、日韓関係は破綻しかねない。
パンドラの箱開けた
木村幹・神戸大大学院教授(朝鮮半島地域研究)の話
1965年の日韓請求権協定を実質的に骨抜きにする判決だ。
植民地支配(1)に関係した日本企業による「不法行為は協定の対象外」とする判断だが、このロジックを応用すれば日本政府の「不法行為」に対する損害賠償請求も認められる可能性がある。
日韓関係の根幹を揺るがす事態で、韓国側は「パンドラの箱」を開けたと言える。
韓国で今回こうした判決が出た背景には、朴槿恵政権崩壊後に広がった「政治は民衆が動かす。司法も民衆の意向に沿うべきだ」といった雰囲気がある。
南北関係が進展の兆しを見せ、米国と良好な関係を築けているため、韓国国内の政治家や国民が自信を付けて「もはや日本は気にしなくてよい」という考え方が表に出てきている。
文在寅政権は朴政権時の判決先送り疑惑もあり、判決を尊重するしかない。
間違っても、これを積極的に否定するような行動は取れないだろう。
パンドラの箱の中に唯一残ったものは、国際司法裁判所で(ICJ)などへの国際社会への訴えだ。
北朝鮮への対応を考えると、韓国は対日関係の悪化は避けたいはずで、日本政府は韓国をうまく説得し、ICJなどの国際機関の場で議論したらどうか。
徴用工問題は日韓で長く議論した経緯があり、日本が勝てる可能性は大きいと思う。
(1) 植民地支配 :
有識者の話ということで載せているのだろうが、二人とも日本統治時代を植民地支配と言っている。
そういう考え方の人たちの話だろう。
181031 揺らぐ日韓未来志向 元徴用工への賠償確定
'18/10/31北海道新聞朝刊3面の記事から
揺らぐ日韓未来志向 元徴用工への賠償確定
韓国 板挟みで苦悩/日本 募るいら立ち
韓国最高栽が30日に下した日本企業に元徴用工への損害賠償を命じる判決は、「未来志向」をうたう日韓関係を激しく揺さぶった。
両政府が徴用工問題で堅持してきた「解決済み」との見解を覆す内容だけに、反発を強める日本政府は国際司法裁判所(ICJ)への提訴も辞さない構え。
北朝鮮の非核化という共通課題を抱え、両政府とも対立の泥沼化を避けたいのが本音だが、再燃した歴史問題は外交上の協力関係に深刻な亀裂を生みかねない。
「被害者の傷が早く、そして最大限癒されるよう努力していく。韓日関係を未来志向的に発展させていくことを希望する」。
韓国の李洛淵首相が判決を受けて発表した公式見解には韓国政府の苦悩がにじんだ。
元徴用工の訴訟を巡っては、対日関係の悪化を懸念した朴槿恵前政権の意向をくみ、最高裁が判決を先送りしていた疑惑が浮上。
昨年5月に就任した革新系の文在寅政権は、前政権の訴訟への介入疑惑を追及する構えを見せる一方、北朝鮮問題での連携の必要性などから対日関係も重視してきた。
実際、今年5月に労働者団体が釜山の日本総領事館前に徴用工像を設置しようとした際には、韓国当局が警察隊を動員して設置を阻止した。
文氏がかつて参画した盧武鉉政権は元徴用工の個人請求権の存在を事実上認めつつ、「韓国政府は被害者を救済する道義的責任がある」と判断。
自国予算で「慰労金」名目の補償を行った経緯がある。
今回判決を受けた対応でも、文氏が盧政権の判断を踏襲し、日本企業が元徴用工に直接賠償を支払うことを何らかの形で回避する可能性はある。
ただ原告側が今回判決を受けて日本の責任追及の動きを強めるのは必死。
韓国政府の日本側への配慮が際立てば、世論の批判の矛先は文政権に向かいかねない。
判決は両政府が徴用工問題を「完全かつ最終的に解決済み」と位置づけた1965年の日韓請求権協定を空文化する内容だが、日韓外交筋は「文政権が判決に沿って立場を変える可能性は否定できない」とみる。
一方の日本政府は韓国政府の出方を読み切れず、いら立ちを募らせる。
外務省幹部は「司法が国際法に違反する判決を出した以上、韓国政府は是正措置を取りなさいということだ」と切り捨てた。
日本政府は、韓国政府の出方を見極めた上で元徴用工の請求権問題を巡る当局間協議を求める方針。
協議が不調に終われば、第三国の委員も含む仲裁委員会に扱いを委ね、それでも解決に至らない場合はICJへの提訴に踏み切る構えだ。
日本政府高官は30日、記者団に「韓国はいつも歴史問題を蒸し返す。今回は引き下がらない」と断言した。
国際観艦式での自衛艦旗・旭日旗の掲揚問題や韓国国会議員の竹島上陸で冷え込む日韓関係に追い打ちを掛ける今回の判決。
ただ日本政府は北朝鮮による日本人拉致問題の解決には、南北対話を重ねる韓国政府の橋渡しが不可欠とも分析する。
「影響が出ないよう韓国政府がきちんと対応を取ってくれると思っている」。
河野太郎外相は30日、記者団に祈るように語った。
(上家敬史、ソウル 幸坂 浩)
181031 「国際法上あり得ない」 首相「解決済み」維持求める
181031の北海道新聞朝刊記事2面から
「国際法上あり得ない」
首相「解決済み」維持求める
安倍晋三首相は30日、韓国最高裁が日本植民地時代に徴用された韓国人の個人請求権を認めて新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を命じた判決について、官邸で記者団に「国際法に照らしてあり得ない判断だ。日本政府として毅然と対応する」と表明した。(則定隆史)
日韓両政府は1965年の日韓請求権協定に基づき、元徴用工の個人請求権問題は「完全かつ最終的に解決済み」との立場を確認してきた。
日本政府は韓国政府に対し、協定内容を全面否定する今回の判決に沿った対応は取らず、従来の立場を維持するよう求め続ける方針。
また、請求権問題への対応に万全を期すため、30日付で外務省アジア大洋州局に「日韓請求権関連問題対策室」も設置した。
これに関連し、河野太郎外相は同日夕、外務省に韓国の李洙勲駐日大使を呼び、判決内容に関し「法の支配が貫徹されている国際社会の常識では考えられない」と抗議。
日本企業に不利益を生じさせないため、韓国政府が必要な措置を講じるよう要求した。
1面の「元徴用工の個人請求権認定 新日鉄住金の賠償確定 韓国最高裁」の記事に対する日本政府の対応は、2面に掲載されている。