Cameraと散歩

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230403 北海道似湾編 木菟と雑魚釣り 3の2

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履 歴 稿    紫 影子  

北海道似湾編
  木菟と雑魚釣り 3の2


 それは、その日の黄昏時のことであったが、ニセップと呼んで居た古潭に住んで居た布施と言う姓の少女が、カケスよりは幾分小さかったが、黒い色の耳が頭上の両脇にピンと立って居る鳥を持って来てくれた。

 私はその鳥を、有難うと言って受取ると、嘗てはカケスの巣箱であった箱の中へ、早速入れたのであった。

 「さようなら」と言って、その少女は玄関を出て行こうとしたから、「オイ、一寸待ってくれ。」と言って、玄関に待たしておいて、奥の八畳間で裁縫をして居た母に、「お母さん、ニセップの布施と言う 愛奴の娘が木菟を持って来てくれたんだよ、今玄関に待たしてあるんだが、お礼に十銭位やりたいんだが。」と私が言うと、「そう、そりや良かったな、カケスが死んでからはお前の元気が無いのでお母さんは心配して居たんだ。お礼はお母さんが直接するから。」と言って、それまで玄関で待って居た少女が「おばさん、そんなことしなくても良いの。」と言って辞退するその手に、無理矢理十銭銀貨を1枚握らせて、「あんた、どうも有難う、 うちの子は未だ此処の土地に馴れて居ないから、これからも仲良になってやっておくれ。」と頼んで居たが、その慈愛に満ちた母の態度は、今も私の脳裡に深く刻みついて居る。

 「おばさん有難う。」と、少女はとても喜んで帰って行ったが、私は早速木菟の来たことを保君に報告しなければと思って、急いで彼の家へ走った。




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 「おい、保君よ、今布施がなぁ、木菟を持って来てくれたぞ。」と私が報告をすると、「おおそうか、今日持って来たのか、そしたらこれから餌の雑魚を釣りに行かなけりゃならんなぁ、さあ、それじゃあ早速行くべよ、早く行かんと日が暮れてしまうぞ、なあにこれからだって、二人で釣れば、明日学校から帰るまでの餌は充分釣れるよ。」と、元気よく言った保君は、裏からテングスや釣針を装備してある釣竿を二本持って来て、その一本を私に渡した。

 「釣りに行く沼はこっちだ。」と言って、保君が駈け出したので、その後に続いて私も、生べつの方向へ郵便局の前から走ったのであったが、約五百米程走った所から右へ曲るニセップの古潭への道の所で、辛くも私は彼に追いつくことが出来た。

 「オイ、此処から曲がって行くんだ。」と言って保君は、また駈け出したのであったが、その時の私は、彼と言う少年は実に足の速い奴だなと思った。と言っても、駈けることについては、そう人後に落ちないと言う自信を持って居た私ではあったのだが、この保君の足にはとてもついて行けなかった。



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そうした保君が、「オイ、此処から降りるんだぞ。」と言って、遅れまいと懸命に後を追って居る私を振返って叫ぶと同時に、彼の姿は台地の路から下へ吸込まれるように消えて行った。

 ヒイヒイヒイと呼吸をはずませながらも、彼の後を懸命に追って居た私が、彼が下へ消えていった地点に着くと、其処からは、台地の下に在った水田地帯へ降りる急斜面に細い小路があって、その小路を降った所には、その周囲が三十米程と言う小さな沼が、東西に並んで二つあった。

 私がその小沼へ駈け降りた時には、付近の雑草を引き抜いて捕ったと思う、二、三匹の蚯蚓を地上へ投出して置いて、既に保君は釣糸を沼へ垂れて居た。