Cameraと散歩

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230509 北海道似湾編 似湾沢 9の2

IMGR075-22

履 歴 稿    紫 影子  

北海道似湾編
  似湾沢 9の2

 
 池田さんの家は、学校の坂を降った所を流れて居る小沢の土橋を渡った右側に在った。

 私達と一緒に行くと言う池田さんの浩治君は二男坊であったが、当時の似湾には小学校の高等科が無かったので、二十粁程離れた知決辺と言う所の高等科に下宿屋から通学をして居た一年生であった。
そうして、この時の浩治少年は、学校の暑中休暇で帰省をして居たのであった。

 「浩治さん、支度出来たか、皆来たぞ。」と保君が表から呼びかけると、「待って居たんだ。」と言って、私達と同じように腰に弁当を包んだ風呂敷を巻いて、矢張り短い釣竿を持った浩治少年が飛び出して来た。

 四人になった私達は、池田さんの家から一粁程行った所の右側に在る神社の前まで行くと、其処からT字路になって居る道を左に曲がって、更に五百米程行った所に在った、鵡川川の渡船場へ出た。

 渡船場は、こちらの川原から向岸まで、太いワイヤーロープが張られて居て、水面よりも二米程高い向岸の上には、小さな草葺きの家が一軒ポツンと建って居た。

 その向岸の家に向かって「オーイ」と、保君が叫ぶと、中から一人の年老いた男が出て来て岸辺に繋いであった船を、私達の居る川原へ漕ぎ出した。



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 ガーッ、ガーッと川を横断して張ってある太いワイヤロープに、船の軸から掛けてある細いワイヤーロープが、相互の摩擦で一進する毎に軋音を出しながら船は、私達の前に着いた。

 私は川の渡船に乗るのはこの時が始めてであったが、一般の船形とは違って、底の平ったい長方形の船であった。

 私が面白い形の船だなと思って居ると、「この船にはな、馬車も馬も乗せて渡すんだぞ。」と、保君が教えてくれた。

 対岸に渡った私達は、右側の山の裾に在る直線の道を西へ歩くのであったが、この道は隣村厚真村の知決辺と言う所に通じて居て四粁程行った所から、時折熊が出没すると言う峠に向って、左折して居た。

 この左折する所に、通称十間橋と呼んで居た全長十間の木橋が似湾沢に架橋されて居て、私達がこの十間橋の所へ着いたのは、太陽の位置から見て、略正午に近い時刻であった。

 「オイ皆、此処で弁当食うことにするべよ。」と保君が言ったので、「そうするか。」と一同が腰の弁当を開いて、ムシャムシャと食ったのだが、弁当を食べ終ると四人は、其処で一寸休憩をした。