’15/09/20の新聞記事
柳沢協二の安保国会チェック
やなぎさわ・きょうじ 46年生まれ、東大法学部卒業後、旧防衛庁に入り、
04〜09年に安全保障担当の官房副長官補を務めた。
・変貌する自衛隊の「専守防衛」
「殺し、殺される」リスク
安全保障関連法が成立したことで、創設以来一貫して「専守防衛」を掲げてきた自衛隊の姿は、米軍との一体化により他国に脅威を与えかねない存在に変貌し、自衛官が殺し殺されるリスクが格段に高まります。
憲法9条の下、平和国家として発展してきた日本のあり方を根底から変える法案であり、野党の「戦争法案」との指摘は間違っていないと思います。
国会審議で安倍晋三首相は「抑止力が強化されることで、国民の安全は一層確かなものになる」と述べ、法案の必要性を繰り返し強調しました。
抑止力とは、相手の力よりも強い力を誇示することで、攻撃する意欲を失わせることです。
これまでの自衛隊は、国内防衛に徹する受け身の姿勢でした。
しかし、集団的自衛権の行使を認めることによって、日本が直接攻撃を受けていなくても武力の行使が可能になります。
それが抑止力につながるというのが政府の説明ですが、同時に近隣国を刺激し、緊張感を高め、軍拡競争を招く副作用があることを忘れてはいけません。
また、自衛隊が海外で活動する際の武器の使用基準を大幅に緩和し、他国部隊などが襲われた場合に武器を使って助ける「駆け付け警護」や、現地の治安維持業務などが加わります。
法案審議中に明らかになった、自衛隊のイラク人道復興支援(2004〜06年)に関する内部報告書には、活動が危険と隣り合わせだった実態が記されていました。
イラク南部のルメイサでは05年12月、自衛官が群衆に取り囲まれる「事件」が発生しました。
群衆の中には銃の所持者もおり、車両が怖され投石も受けるなど、まさに一触即発の状況でした。
ルメイサ事件では一人の犠牲者も出すことはありませんでした。
自衛官は武器を使用せず、地元警察に依頼し穏便に対処してもらいました。
もしも、自衛官が一発でも銃を撃っていれば、群衆は敵意を持って反撃し、多くの死傷者を出していたでしょう。
これまで、自衛隊が海外で一人も殺さず、一人も殺されずにこられたのは、ルメイサ事件のように武器を使用することに抑制的だったからです。
新たな法案での任務は、武器を使用することを前提としており、自衛官の意識が大きく変わるのは確実です。
自衛隊がこのように変質してしまうことを、果たしてどれだけの国民が望んでいるのでしょうか。
国会周辺や全国各地で連日、廃案を訴えるデモや集会が繰り広げられたことを考えれば明らかです。
志の高い自衛官は、どんなリスクの高い任務に対しても犠牲を覚悟して臨みます。
ただ、その任務の必要性や意味について国民が広く共有していることが重要です。
首相の説明を何度聞いても、なぜ集団的自衛権を行使するのか、なぜ自衛隊が海外で危険を冒さなければならないのか、全く理解できません。
長い年月をかけて築き上げてきた国民との信頼関係が崩れれば、自衛隊の活動そのものが成り立たなくなるのです。 (利き手・柳沢郷介)
150920 変貌する自衛隊の「専守防衛」 「殺し、殺される」リスク