Cameraと散歩

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200926 第三の新居 7の6

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履 歴 稿    紫 影子  

香川県
 第三の新居 7の6

 
小さい子供達は、その火に怯えて「ワアワア」と声をあげて泣き出したが、「こりやぁ大変なことになってしまったぞ。」と慌てた私は、急いで裸になって脱いだ着物を打振り打振り火を叩き消そうと、紅蓮の炎を追い廻したのだが、とても少年の私の手におえる勢ではなかった。

汗ばんだ私は、顔と言わず手と言わず、体全体に燃えつきた枯れ草の黒い煤に吸いつかれて、真黒になった儘で夢中になって飛び廻っている所に、蹄の音も荒荒しく、1人の騎馬憲兵が駆けつけて来た。




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「オイッ、どうしたか」と馬上から怒鳴る憲兵の声に、ハッとした私が、振りあげた着物を肩にかけて、その憲兵の方向へ向くと、14、5人の兵隊さんが、スコップその他の消火器具を持って駈けて来るのが見えた。

火は兵隊さん達の手で間もなく消されたが、兵隊さん達の消火作業が始まってから、火が全く消えるまで、私は真黒に煤けた裸の肩に着物をかけたまま、只茫然として傍観して居たのだが、隊伍を整えた兵隊さん達が、兵舎へ帰って行く後姿を見送った私は、ホッとした安心さと、よく消してくれた、と言う感謝の気持が交交と胸に迫って、ワッと泣きだした者であった。




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そうした私の肩をトントンと軽く叩いた憲兵は、「坊や、もう二度とこんなことをしたらいかんぞ。もし今度やったら、もうお父さんやお母さんと一緒に居られんようになるんだぞ。」と優しく諭してから、「もう泣くのは止めろうよ。男の子がいつまでも泣いて居ると人に笑われるぞ。兵隊さんが家まで送ってやるから、さぁ、着物を着て早く帰ろう」と馬を索いて、徒歩で家まで送ってくれた、と言う事件であった。