190804 韓国への輸出規制強化 政治対立 経済へ拡大防げ 記者の視点 ソウル駐在 幸坂 浩
’19/08/04付北海道新聞朝刊7面の記事から
記者の視点 ソウル駐在 幸坂 浩
韓国への輸出規制強化
政治対立 経済へ拡大防げ
日本政府は7月、韓国に対する半導体材料の輸出規制を強化する措置を発動し、2日には広範な品目の輸出手続きを優遇する「ホワイト国」から韓国を除外すると閣議決定した。
韓国は猛反発し、北海道観光を含む日本関連商品の不買運動など影響が広がっている。
図らずも日韓がいかに経済的に結びついているかが浮き彫りになった格好だ。
それだけに政策の目的と手段、実際の効果を冷静に考えたい。
問題の背景には元徴用工問題があるものの、政治的に対立があっても経済への影響をいたずらに拡大させるのは双方にとって得策ではない。
規制強化の目的が、元徴用工訴訟で韓国最高裁が日本企業に賠償を命じたことを巡り、韓国政府に対応を促すことにあるのは公然の秘密だ。
日本政府は規制強化は訴訟への「報復ではない」と主張する一方、原告が申請中の日本企業の資産売却が成立すれば「必要な措置を講じる」(河野太郎外相」としている。
韓国側の慌てぶりを見ると「日本は本気だ」と伝える狙いは成功したと言えるだろう。
日本政府は、元徴用工問題は日韓請求権協定によって「解決済み」との立場。
同協定は日本が米国などと締結したサンフランシスコ講和条約に基づき結ばれたため、日本企業が賠償金を支払えば戦後体制の安定が揺らぐと危惧する。
今後の北朝鮮との国交正常化交渉にも影響しかねない。
ただ韓国側は「司法判断には従わざるを得ない」との姿勢を崩しておらず、規制強化を受けて態度をむしろ硬化させている。
結局のところ日本企業に実害が生じるのを回避できるかはなお不透明だ。
また、日本が手段として通商を選んだことにはリスクがある。
韓国は世界貿易機関(WTO)に提訴する構え。
日本は「安全保障上の措置」と主張するが、長年培ってきた自由貿易の旗手というイメージに傷がつく虞もある。
韓国にとって半導体は輸出額の2割を占める中核産業だが、今回の措置は禁輸ではないことを踏まえると、私は規制強化自体では甚大な影響は出ないとみている。
貿易を担う日本企業の関係者は「じきに輸出は再開されるはずだが、韓国政府が冷静ではないため韓国企業はパニックになっている」と話す。
むしろ気がかりなのは不買運動の影響だ。
道によると韓国人来道客は近年増加が続き、2017年度には前年度比5割増の約64万人と、約67万人の中国人に迫った。
18年度には中国を抜いて国・地域別でトップになったとみられている。
それが大きく減れば北海道経済に打撃となる。
韓国で日本の衣料などを売る会社の社員はほとんど韓国人だ。
経営が悪化すればその雇用にしわ寄せが行く。
ただ、こうした問題はほとんど無視されている。
日韓双方で困っている人が声を上げにくい雰囲気になっていないか。
安倍政権が半導体材料の輸出規制強化を発動したのは参院選告示日の7月4日。
「参院選の集票に役立つ」(韓国の聯合ニュース」と指摘されても仕方がない。
文在寅政権も反発を鮮明にすることで支持率が上昇した。
7月29日発表の世論調査によると、支持率は52.1%と昨年11月以来の高水準にある。
文政権関係者からは「この状況が来春の国会議員選挙まで続けばありがたい」との本音も漏れる。
透けて見えるのは、対立が激化するほど双方に経済的な損失が予想される一方で、両政権にとってはそれぞれ利益になる構図だ。
両国民は何が本当に「国益」なのか、冷静に判断する必要がある。