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200722 「情報封鎖」感染広がる

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'20/07/22付北海道新聞朝刊2面の記事

検証コロナ禍 第一部 「情報封鎖」感染広がる
 手探りの緊急事態 2︎⃣ 春節武漢


1月18日、中国湖北省武漢市の巨大団地「百歩亭」は、数万人の住民が料理を持ち寄って25日の春節(旧正月)の到来を祝う伝統行事「万家宴」で賑わっていた。




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宴の後に症状

会場には「万事如意(何事も思い通りになる)」など晴れの言葉が書かれた赤い飾りが並べられ、国営通信新華社も季節の話題として「4万世帯以上が一堂に会し、新春を祝った」と写真付きで報じた。

約6キロ先の華南海鮮卸売市場を起点に新型コロナウィルスの集団感染が発生していたことへの危機感は皆無だった。

宴の後、団地内ではせきや発熱の症状を訴える住民が続出した。

巨大行事が新型コロナの流行に火を付けたのは間違いなく、団地に住む60代男性は「入院できず団地の路上で倒れ、死んだ人もいた。ウィルスの恐ろしさが分かっていたなら中止すべきだった」とやるせない怒りをぶちまけた。




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地元政府は当時、医療従事者の感染を否定するなど事態を過小評価する発表を続けていた。

同12〜17日には武漢市で省人民代表大会(議会)が開かれたが、感染問題は素通りにされた。

潮目は同18〜19日、現地に派遣され、人から人への感染を確認した国の専門家チームの報告だった。

政府は20日、現地に対策本部を設置して直接指揮に乗り出し、23日には武漢市内と市外の交通を遮断する「都市封鎖」を宣言。

都市封鎖は全国に広がり、中国共産党指導部は感染封じ込めの切り札として国内外に成果を強調した。




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だが、封鎖前、中国では春節に合わせた帰省や旅行など「大移動が」が始まっており、武漢市長も同26日、「新型肺炎が始まってから既に500万人が武漢を離れた」と明らかにしていた。

感染は既に日本や米国など海外にも広がり始めており、中国政府が海外団体旅行を禁じた翌日の同28日には、武漢市から道内旅行に来ていた女性の感染が判明した。

道内第一号だった。

さっぽろ雪まつりに合わせ、道内旅行に来ていた中国人は少なくなく、ネットには今も「天津航空が欠航になったので、雪まつりには別の航空会社で行く」「北海道の自由旅行を終え、今は自宅隔離中」と旅行前後の投稿が残る。




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記者が不明に

武漢は都市封鎖後、ゴーストタウンのように街中から人影がなくなる一方、病院には感染者が詰めかけ、医療崩壊に陥った。

ネットには「病院を5カ所もたらい回しにされた」「父と母を何とか入院させて。助けて」と窮状を訴える武漢市民の書き込みが相次いだ。

ただ、2月上旬から下旬にかけ、医療崩壊や死者急増の実態をネットで公開していた市民記者らが次々と行方不明になった。

いずれも公安当局に拘束されたとみられる。




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武漢市の30代男性は「当時、多くの市民は自分たちがどのような状況に置かれているのかわからなかった」と述べ、暗に政府の情報隠蔽が感染を拡大させたと批判する。

都市封鎖という異例の措置とは裏腹に、当局が不都合な事実を覆い隠す「情報封鎖」は中国では日常で、家族が新型コロナの後遺症に悩む武漢市の女性は「海外メディアに窮状を訴えれば、良くないことが起こる」と今も口を閉ざす。




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武漢市では4月に都市封鎖が解除され、今は市中心部の地下鉄駅前には数十軒の露店がひしめく。

だが、地面に食器を並べて売っていた男性は「都市封鎖で店の家賃が払えなくなり、露店 になった。売り上げは昔の半分以下だ」とつぶやいた。

新型コロナの傷跡は今も深い。 (武漢で十亀敬介、写真も)



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