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201210 中国公船の尖閣接近最多

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’20/12/10付北海道新聞朝刊6面の記事

中国公船の尖閣接近最多

明治学院大法学部準教授 鶴田 順     


発生した事実 発信を


中国政府に所属する船舶(中国公船)が10月11〜13日に57時間にわたって沖縄県尖閣諸島周辺の領海に連続して侵入し、1回当たり侵入時間の最長を記録した。
さらに11月2日には、領海外の接続水域を航行した日数が合計283日となり、年間の最多記録を更新した。
周辺海域で操業する日本漁船への接近も、複数回発生している。

2012年9月に日本政府が尖閣諸島を「国有財産化」して以来、中国公船による領海への侵入と接続水域における航行が常態化している。
今年の関連の動きを振り返りながら、今後に備える必要性を指摘したい。




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中国側は、尖閣諸島周辺海域において「法にのっとり中国管轄海域において正常な法執行を行っている」と主張している。
11月24日の日中外相会談後の共同記者発表で、王毅外相は「(周辺海域で操業する日本漁船に対して)必要な反応をしなければならない」と述べた。

中国公船による「法執行」は、これまでのところ、漁船の拿捕や立ち入り検査、漁民の逮捕など具体的に・物理的なかたちで行われているわけではない。
ただ、そうであっても、国際法の観点からは、日本の領海における中国公船の活動は、「無害でない通航」や日本が自国領域で有する「主権の侵害」という否定的な評価を下すことができる活動である。




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日本は「事態をエスカレートさせない」という方針のもと、海上保安庁が現場海域で、国際法と日本の国内法に基づいて、「海上法執行活動」として対応している。
領海に侵入しようとする中国公船の進路を規制し、領海侵入された場合には領海外への退去を要請するという対応である。

しかし、残念なことに、周辺海域で活動する中国公船の隻数、連続滞留時間、日本漁船への接近の件数、いずれも今年になって増加した。
尖閣諸島情勢は、中国側の動きによって悪化している。




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このような認識は7月に閣議で了承された「防衛白書」でも示された。
また11月17日に行われた日豪首脳会談後の共同声明では、「(東シナ海における)現状変更を追求し緊張を高めるいかなる威圧的で一方的な行動にも強く反対する」と述べられた。

では、事態の悪化に日本はどのように対処すべきか。
現在の現場海域での対応である海上法執行活動の意義と射程を踏まえて考えたい。




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海上法執行活動とは、基本的には、私人などに対する国内法令の適用・執行である。
具体的には犯罪を予防し、犯罪行為が発生した場合には、捜査を行い、犯人が明らかとなれば、逮捕して刑事司法手続きに乗せるという権限行使である。
「海の秩序を守る」ための活動といえる。

海上法執行活動には、領域主権を確保し、領土保全の侵害を排除するなど国家安全保障に資する側面もあるが、これらはあくまでも副次的効果である。
国家安全保障のための活動とは、目的・法的根拠・活動内容が異なる。
「領土を守る」ことは、海上法執行活動が直接に目的とするものではない。
海上法執行活動による対応の射程は限定的である。




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尖閣諸島をとりまく情勢を適切に認識、分析、評価し、情勢の変化を的確に見極め、その結果を現場対応に確実につなげていく必要がある。
米国政府に、対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の尖閣諸島への適用を確認することも重要であるが、まずは日本が主体的にさまざまな備えを進めていく必要がある。

日本の対応が、国内的に、また国際的に、その内容に見合った評価を得られるように、いま尖閣で何が起きているのか、発生した事実と問題意識をひろく共有してもらうことが重要である。
そのためには、事実をベースに、できるだけ写真や動画も用いながら分かりやすく発信する必要がある。
日本の発信力、外交力が問われている。