201121 学術会議に圧力 軍事研究解禁は論外だ
'20/11/21付北海道新聞朝刊7面の社説
学術会議に圧力 軍事研究解禁は論外だ
政府が日本学術会議に対し、会議側が長く否定してきた軍事研究について、解禁するよう求める姿勢を強めている。
井上信治科学技術担当相は国会で、研究成果を軍事、民生の両面で使う「デュアルユース」(軍民両用)について検討するよう会議側に伝えたことを明らかにした。
そもそも学術会議を巡っては、菅義偉首相が日本学術会議法の解釈を事実上変更し、会議側が推薦した105人の会員候補のうち6人の任命を一方的に拒否したことが問題となっている。
首相は組織見直しの必要性に言及する一方、任命拒否の具体的な理由には「答えを差し控える」と口をつぐみ続けている。
不都合な指摘は無視し、逆に人事と約10億円の予算を握る権限をちらつかせて、軍事研究を認めさせようとするとは言語道断だ。
憲法が保障する「学問の自由」と、学術会議法が定めた「会議の独立性」をどこまで脅かすつもりなのか。
政府が会議を都合のいい存在にすることは法の趣旨に反する。
不当な圧力はやめるべきだ。
学術会議は先の大戦に科学者が協力したことへの反省に基づいて設立された。
その経緯を踏まえれば、1950年と67年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」とする旨の声明を発表したのは当然の姿勢であろう。
2017年には防衛装備庁が創設した軍事応用可能な研究への助成制度に対し「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と批判する声明を出した。
自民党は17年の声明にことさら反発し、経済界からも不満の声があり、今回の任命拒否の一因になったとの見方が根強い。
だがITの進化で民生用の技術が軍事転用されることは少なくない。
過ちを繰り返さないためにも、独立した科学者組織からの指摘は重く受け止めるべきだ。
政府は任命拒否への批判が強まった後、学術会議を急遽行革対象に挙げ、自民党からはデュアルユースの研究を改革項目とするよう求める声が出ている。
政権の姿勢は筋違いも甚だしく、問題のすり替えに他ならない。
首相は任命拒否に杉田和博官房副長官が関与したことを認め、杉田氏らが事前協議した公文書が存在することも明らかになった。
25日には衆参の予算委員会で集中審議がある。
杉田氏出席の下、政府は公文書を開示し、真相を明らかにしなくてはならない。