’21/02/10付北海道新聞朝刊7面社説
中国海警法 尖閣の現状変更許すな
中国の海上警備を担う海警局の権限を強化し、準軍事組織としての位置づけを明確にした海警法が今月1日、施行された。
武器の使用や外国船の強制排除などを認め、対象地域については、国際法上の領海や接続水域ではなく「管轄海域」との曖昧な表現で規定した。
中国が一方的に「管轄海域」と主張する島や海域で、権益のさらなる拡大を図る意図が明らかだ。
中国公船は法施行後も沖縄県・尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返している。
今後は海警法を適用し、海上保安庁の船や日本漁船の排除に乗り出す恐れが高まろう。
尖閣は日本固有の領土である。
中国が国内法を根拠に武器使用の権限を広範に認め、力ずくで現状変更を図ることは許されない。
日本政府は領海侵入に抗議し、海警法への懸念を伝えたが、中国側の意に介さない態度は看過できない。
中国は自制すべきだ。
中国の覇権的な動きは南シナ海でも強まっている。
国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所が中国の主権を否定した海域で、軍事拠点化や漁業の権益拡大を進めている。
領有を争うフィリピンやベトナムが、海警法施行で実効支配が強まることに反発したのは当然だ。
現状を放置すれば、偶発的な衝突などが起きかねない。
中国は国際法を遵守しなくてはならない。
当初、海警局は海洋権益を保護するための行政組織だったが、2018年に中央軍事委員会の指揮下にある武装警察に編入され、公船の武装・大型化を進めてきた。
同時に尖閣周辺では日本漁船を追尾するなど活動を活発化させ、昨年の接続水域の航行日数は333日間で、過去最多となった。
そこには現状変更に向け、既成事実を重ねる狙いが透けよう。
海警法では管轄する島で外国が造った建物の強制撤去も認めている。
日本が管理する尖閣の灯台を撤去するために上陸する事態も否定できなくなった。
菅義偉首相はバイデン米大統領との電話会談で、尖閣が日米安保条約の適用対象であると再確認し、中国側を強く牽制している。
だが力に力で対抗するだけでは、不測の事態を招きかねない。
中国に対しては、懸念を共有する国々とも連携し、外交を通じて言うべきは言い、覇権的な動きをやめない限り世界から信は得られないことを認識させるべきだ。
衝突回避には、防衛当局の幹部間ホットラインを開設することも急がなくてはならない。
210210 中国海警法 尖閣の現状変更許すな