’21/02/28付北海道新聞朝刊2面の記事から
防衛施設、原発、空港周辺「注視区域」に 私権制限 影響強く
重要土地等調査法案
安全保障の観点から重要な土地の不適切な利用や所有を防ぐとして、政府が今国会での成立を目指す重要土地等調査法案は、一定区域の土地利用について国に調査権限を与え、不適切な利用と判断されれば所有者に罰則も科す内容だ。
外国資本を念頭に不透明な取引を監視する効果が強調される一方、調査対象が広く、私権の制限など国民生活に影響を与える懸念も強い。
3月上旬にも閣議決定される可能性がある法案の問題点とは何か。 (立野理彦)
民間売買に制約/適用広がる懸念
「防衛施設周辺における土地の利用、管理のあり方は国家の安全保障に関わる重要な問題だ」。
岸信夫防衛相は26日の記者会見で法案の意義を強調。
一方、公明党の石井啓一幹事長は同日の会見で「趣旨や目的は理解できるが、私権の制限や経済活動に関わる。丁寧に議論を深めていきたい」と述べ、政府の前のめりな姿勢を牽制した。
法案は安倍晋三前政権時代から検討されてきた。
与党内にも慎重論があるのは、民間の土地の取引や利用に対しても一定の制約を課すことになるからだ。
法案は、防衛関係施設や、原発や空港など重要インフラの周囲約1キロを「注視区域」と設定し、所有者の氏名や住所、国籍、利用状況などを調査する権限を国に与える。
司令部機能を持つ自衛隊駐屯地など特に重要性が高いとされる施設周辺は「特別注視区域」とし、土地・建物売買に際して売り手と買い手の双方に氏名や利用目的の事前届け出を義務付ける。
憲法29条は財産権を保障する。
「公共の福祉」の制約は受けるものの財産権は経済的自由と言う基本的人権につながる重要な権利だ。
自衛隊に関する訴訟を多く手掛ける佐藤博文弁護士(札幌)は、法案について「調査で土地の評価が下がったり売買が難しくなったりすれば、重大な財産権の制限となる」とみる。
さらに「例えば千歳では自衛隊基地の周囲1キロに市街地も含まれる。重要インフラまでひとくくりするのは乱暴過ぎる」と指摘する。
法案を巡っては、すでに与野党から「水源地や農地なども規制すべきだ」「施設から1キロでは狭すぎる」などと、適用範囲の拡大を求める声も上がっている。
自民党国防族議員からは「いったん成立させれば対象を広げるのは容易だ」との本音も漏れ、早稲田大学法学学術院の水島朝穂教授(憲法)は「戦前の要塞地帯法の再来とまでは言わないが、機能させようと思えば、同じように拡大できる側面を持つ」と警告する。
1900年(明治33年)に施行された要塞地帯法は、要塞を中心とした一定範囲の地域で立ち入りや写真撮影、建築物の増改築などを厳しく制限し、罰則も課した。
度重なる改正で対象地域に指定される範囲も拡大。
函館市史によると、要塞地帯に指定された函館山周辺では、何も知らずに記念撮影した市民や観光客の摘発が相次いだという。
重要土地等調査法案でも、国が対象区域の土地・建物を不正に利用していると判断すれば、中止の勧告や命令を出し、従わなければ2年以下の懲役もしくは2百万円以下の罰金が科される。
水島教授は「中国の動きは楽観できないが、安全保障を理由を過剰な規制の枠組みを作ることには、慎重な検討が必要だ」と指摘する。
210228 重要土地等調査法案