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201212 「安倍派」復活 阻む「桜」

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210315-201212付北海道新聞朝刊23面の記事

ガバメント 舞台裏を読む

「安倍派」復活 阻む「桜」

「辞めてすぐ(の復帰)は早いかな。来年、衆院選の前か後か、どちらかに(派閥に)帰りたい」

安倍晋三前首相は11月初旬、出身派閥の細田派(清和政策研究会)について余裕で周囲に語った。
祖父岸信介元首相の流れをくみ、父安倍晋太郎元外相が率いた派閥だ。
2度目の自民党総裁に就任する2012年に離脱したため、看板こそ細田派だが、自身が戻って領袖に就くのは既定路線でもあった。

9月16日の辞任の12日後、細田派の政治資金パーティーでは「まだ清和研の一員ではないが、もともとは出身だ」と冗舌に語った。
しかし11月下旬、「桜を見る会」前日の夕食会を巡る疑惑が再浮上し、空気は一変した。
「安倍さんが派閥に戻るのはしばらく先送りだ」。
細田派中堅は厳しい表情で話す。




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狙うは「キングメーカー

長期政権の実績を背景に、98人の党最大派閥を率いて影響力を保つ。
安倍氏が思い浮かべていたのは、かつて党に君臨した「キングメーカー」の姿だった。
田中角栄氏、竹下登氏らは、首相退任後も、事実上その後の首相を決め、隠然たる力を示した。

実際、安倍氏は自身の後継を決める総裁選で、それまで「禅譲」を示唆していた岸田文雄氏の支援には回らず、菅義偉新首相の流れを決めた。
批判的だった政敵の石破茂氏を追い落とすことにも執着し、周囲に「できれば3位にしたい」と漏らした。
細田派の一部の票が2位の岸田氏に流れたとされる

辞任の理由となった持病の潰瘍性大腸炎は最近、新薬の効果で回復している。
党内からは「辞める必要はなかったのではないか。再々登板もあり得る」(ベテラン議員)との見方すら出ていた。
退任後に別の人物を挟んで首相に3度以上就任したのは、ともに安倍氏の同郷の伊藤博文桂太郎しかいない。




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桜を見る会」前日の夕食会を巡る問題は、昨年11月から国会を紛糾させてきた疑惑だった。
「東京都内のホテルで1人5千円の会費は安すぎる」。
野党側は、実際にかかった費用との差額を安倍氏側が補填していたのではないかと、繰り返し追求した。

安倍氏は「大多数がホテルの宿泊者という事情を踏まえ、ホテルが設定した価格だ」と説明。
補填はしておらず、明細書は作っていないと一貫して主張した。
野党議員からホテルに書面で確認するよう求められると「私がうそをついているというのなら、説明するのはそちら側だ」と色をなして反論した。




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1年後に発覚したのは、当時の野党の追求をなぞるような内容だった。
ホテル側が明細書を作っており、安倍氏側が費用の一部の900万円を補填していた疑いだ。
東京地検特捜部が、後援会代表の公設第1秘書らを任意で事情徴収したことも判明した。

明細書の存在が事実であれば、これまでの論拠は根底から崩れる。
国会で堂々と虚偽の答弁を繰り返していたことにもなる。
野党は「安倍氏が明細書の存在を知らなかった訳がない」と指摘し、安倍氏の国会招致を要求。
安倍氏は記者団に「その段階で事実と思われる事柄を答弁した」と釈明した。




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特捜部は政治資金規正法違反(不記載)の罪で第1秘書を略式起訴する方向で検討しているとみられ、安倍氏は自身の関与を否定する可能性がある。

ただ、自民ベテラン議員は「国会で事実と違うことを答弁してきた。何らかの説明は必要だ」と指摘。
安倍氏実弟岸信夫防衛相も「政治家であれば当然自分の行動には責任を持たなければいけないし、有権者に説明する責任がある」と強調した。




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求心力低下 政界に波紋

安倍氏の求心力低下は、政界にさまざまな波紋を広げる。
来年の総裁選をにらみ細田派は、下村博文政調会長西村康稔経済再生担当相が出馬に意欲を見せ、稲田朋美元防衛相や萩生田光一文部科学相の名も挙がり、落ち着かない。
かつて権勢を振るった田中派竹下派は、大きくなりすぎて結局分裂した。
細田派幹部は「安倍さんという『重し』がないと、派閥は割れるかもしれない」との懸念を漏らす。

再々登板のうわささえあった安倍氏の失墜は、現政権に打撃を与えつつも、短命との見方があった菅氏のライバルが消えることにもつながる。
永田町では「捜査は、首相が仕掛けたのではないか」(野党議員)という根拠のない陰謀論まで飛び交う。




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安倍氏は自粛モードに入った。
11月末にセミナーを開いた細田派中堅は「直前に安倍さんから『かえって迷惑かける』と欠席を伝えられた」と明かす。

07年までの第1次政権が失意の中に終わり、再起を果たした安倍氏は、負けず嫌いで「執念深い政治家」(周辺)だ。
66歳は政界では若いと言われる。

厳しい指摘が相次ぐ中、安倍氏は何を思うのか。
国会内で記者団の質問に答えた今月4日。
きびすを返した後さらに声を掛けられると「背中を向けた段階で、ぜひ、言わないでいただきたい」と言い返した。
笑みを浮かべていたものの、早口でまくしたてる姿にはいらだちがにじんでいた。

(吉田隆久)   

 

 

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